其の十一の十六
「…ッ…!!アリかよ!!」
突然裏律佳の左肩が爆発したのだ。
僕はそれを見て、雄谷がこう言ったのを聞き逃さなかった。
「…時限爆弾?」
「時限爆弾…だって!?」
雄谷も少々動揺しているようだ。親指の爪を噛み始めた。
「おかしいですね・・・。何の時限装置だったのか分からない・・・」
雄谷はじぃっと裏律佳の焼け爛れた左腕を観察していた。
「…大体、爆弾が仕込んであるなんて・・・気付きませんでした」
…それはそうだ、まさか公の試験に、そんな卑怯な真似をするハズがないと思っていたから。しかし雄谷でもそれが暴けなかったとなると・・・。
その時、この部屋から律佳と共に出て行った智香が扉を乱暴に開け、入ってきた。
「耕輔クン!!」
「智香さん!?」
彼女の慌てた様子と、突然の登場に、少なからず驚いたが、今は混乱している場合ではない。
「今すぐにこの試験をやめさせましょう!!」
「なんだって!?」
まさか智香がそんなことを言い始めるとは。
「…先のこと、まだ怒っているなら・・・すいません!!私を引退にしても構いません・・・。で、でも律佳ちゃんが壊れるのは嫌なんです!!身勝手かもしれないけど・・・」
悲しそうにぼつぼつと言う彼女は、確かに身勝手だった。耕輔に全てを十分に明らかにせず、果てに律佳のことが分かってないと耕輔を突き放したのだ。だがしかし、耕輔もそんなに融通が利かない相手ではなかった。
「智香さんが謝ることないし、まして引退することなんてないよ・・・。でも・・・」
智香が怪訝そうに耕輔の顔を窺う。
「は、はい…?」
「止められるのか?」
智香の顔はパァッと明るくなった。
「は、はい!きっと止められます!!」
突然俺の右腕が焼けた。
「ッ…!アリかよ!!」
何が起こったのかも分からなかった。
「あなたは死ぬ」
目の前にいる、クソ野朗・・・俺と同じ顔をしたやつが何もなかった顔で言いやがった。
「何をしやがったんだ!てめぇ!!」
「私が何かをしたんじゃない。あなたの着ているその鎧がしたんです」
「鎧だと?」
体を見ると、前みたいなヒラヒラの腰巻とか、青色の上着とかじゃなく、カテェ赤い鎧に俺は包まれていた。
「俺が着たのか!?」
「違う、私たちが着せた」
俺が着たんじゃない。まーいい。んでコレの何が問題だっつんだ。
「…で、これがどうだって言うんだ!!」
ヤツァ答えた。
「あなたは本来存在しない。だから万が一、“あの人”からあなたにプログラムが切り替わったとき、その鎧が爆発するようにセットされている」
「 ? 」
正直なにいってんのかサッパリだった。えー、だから俺が表律佳と交代しちまった後は、アイツらが着せたこの鎧がこっぱみじんにぶっ壊れるってことかぁ。
「…ってテメェなんてことしゃがんだ!!外せ!!」
「出来ない。あなたは、死ぬ」
クソッ・・・わからねぇヤツだ。
トゥルルル。
俺の中に電話みたいなイメージで呼びかけると、こうすけと今までずっと一緒にいたあいつが受話器みたいなもんを取った。
ガチャ。
ん…?なに?
いきなりでワリーんだけど、出られるか?
え、変わったばっかじゃん?まー・・・出られるけど・・・。
わーってるって。ツレェのは。けどよー、厄介なことになっちまったんだよー。
なに?
お前と交代しなきゃ死ぬ。
んー…何言ってんのかわかんないんだけど。
あー、メンドくせぇんだなぁ。セツメーよぉ。んっとな。
うん。
今着てる服、実はヤベェんだ。
え?
さっき俺の右腕焼けたろ?
ってか爆発したよね・・・。
・・・まー、俺がこのまま表ぇ出たまんまだと、そのうち頭も吹っ飛ぶみてぇなんだわ。
えー!!やだよー!!またこうすけと遊びたいのに!!
ってことでじゃあヨロシクな。
カチャン。
え!ちょ!待って…!!
ツーツーツー…。
「はぁ…」
受話器を置いた頃には、先ほどまで見ていた青い試験場の中だった。
「…?」
コピー律佳が表律佳を異様な顔で見る。
「ねぇ、ホントその顔、笑ってた方が似合うよ」
「!!!」
にこっと緑の眼を笑みに閉じる彼女は、正真正銘、“律佳”だった。