其の十一の十五
互いに相手の腹を探ろうとするかと思うや否や、二人は一瞬消えた。
と思うと試験場の真ん中で殴り合っていた。
「へ、おもしれー!!やるじゃねえか!?テメェ!!」
「…殺す」
ババババババッ!!
と轟音が試験場からガラス越しに聞こえるだけで、眼を凝らしていても、腕は、足は、体は、どう動いているのかも分からない。
「彼女は戦闘用ライド…」
隣にスッと立ち、雄谷は試験場を眺めながら言った。
「こちらもそうですが、彼女もコピーです。さらに五倍の力と、調教が成されています」
今更それを言って何になるのだろう?耕輔はそう思った。
「しかしそれが“仇”となったんですよ」
「…どうゆうことだ?」
「ふふ。分かってませんね」
んなもん分かるかと言ってやりたい。
「表律佳は一度死んでいる。それは理解出来ますね?」
耕輔は頷いてみせる。
「その後どうなったのかも知ってますね?再確認の為口頭でお願いします」
「過去を復唱しろってことか?」
「肯定です」
「…。律佳は、智香さんによって暴走し、その施設で射殺された。でも再生手術で奇跡的に生き返った。けど律佳は思い人を殺してしまった記憶と、再生手術の後遺症で、精神も記憶も吹き飛んだ」
「その後どうなりましたか?」
「その後、彼女は回復することがなかった。仕方なくプログラミングを簡易化して、仕事を割り当て派遣した」
「見事です」
と言う割には感情の欠片もない。
「ではもう分かっていますね?」
「…何が?」
「理由ですよ。僕が言った、コピー律佳の“仇”」
そういえばその為に復唱したんだっけ。
「…いや、分からない・・・」
ため息をつく様子もなく雄谷は淡々と言った。
「…彼女のプログラムは簡易でした」
「…ああ」
「彼女は一度殺されています」
「…あ、ああ」
「さて。それをコピーしたならば、それは?」
「あ!!」
何故気付かなかった!?答えは・・・簡単じゃないか!!
「さらに彼女は調教され、そのライド的に“特化”した感情を押さえつけています。しかしあなたの律佳は違う。あの9事件(変な学校 9の意)によって、“恋”の感情を取り戻した彼女は、正真正銘の傑作機なんですよ。いわば完
全体。“恋をしていた生前の律佳”も“暴走をした律佳”も“あなたと一緒にいた律佳”も、彼女の中にあるんですから」
バグァンッ!!
その時試験場に大きな衝撃が響いた。