其の十一の十
「さて、お出ましのようだな?」
落ち着いた声で、鏡は耕輔に語りかけた。
「一体どんな試験なんだろう・・・」
上の空で答え、律佳の対角線上をまっすぐに見つめると、右側にも同じような自動扉があることに気付く。あそこから入ってくるのか・・・。
ほぼ同時、自動扉がガシャリと音を立て開き、暗闇から人影が現れた。
「・・・馬鹿な」
小さな驚きを鏡が示し、それ以上に耕輔は驚きで声が出なかった。
「そんな・・・嘘だろ・・・!?」
どうしても自分の目にしているものが信じられない。眼をこすってもそこにいるのは確かに・・・・
自動扉から出てきた者、それは、
「律佳・・・!!?」
顔も体も服も髪型も何から何まで全くの同じ、律佳があらわれたのだ。ただ唯一、その律佳には表情が抜けている。
「え!?え・・・!?」
試験場にいる律佳本人も、もう一人の自分に驚いている。
「わ、私・・・!?」
表情のない律佳は答えた。
「あなたです。私は、あなた。でもあなたは私ではない」
「 ? 」
律佳は首を捻る。瞬間もう一人の律佳は初めて表情を浮かべたが、それはとても苦痛な表情で、まるで体中に電気が流れたような。
「ッ!っ!!・・・。・・・。すいません。どうでもいいことでした」
とても律佳とは思えない口調でその律佳が言うと、もう一方の律佳は両のてのひらをふるふると振って、
「うぅうん!全然いいよ!!それよりキミは――?」
「私のことなどどうでもいい。ただのコピー。あなたの模造品」
「モゾウヒンてなに・・・?」
それをガラス越しに見下ろす形で耕輔と鏡は見守っていた。
「模造品・・・つまり・・・」
耕輔が口にすると、鏡が答えた。
「データコピー、だな。動物で言うクローンかもしれん」
「そんな・・・じゃあ、彼女の笑顔はどこへいってしまったんだ!?律佳の模造品なら・・・」
なら、というとり、だからこそ、の方が正しいかもしれない。律佳、つまりもう一人の“彼女”が本当にこの律佳を模造したなら、同じようにへらへらしているはずだ。そ
れが一番の特徴と言ってもいい。
「そんなもの決まってるだろう」
「え?」
あまりに簡単に言う鏡。
「調教されたんだ」
言われてもう一人の律佳の表情を見る。あの冷たい、律佳とは思えない表情・・・。
「調教って・・・!!あんなに表情がなくなるまで!?」
「そうとしか考えようがないだろう。・・・耕輔、冷静になればお前にも分かるはず。興奮しているぞ。少し冷めろ」
確かに彼の言う通りだった。冷静に、かつ普通に考えると、そう考えるしかなくなるのだ。