其の四
騒ぎはおさまり、授業は事なきを得て再開。被害者ゼロと言う数字はもはやお約束であった。
「ねねー、アレ食いたい」
下校中のことだ。屋台は珍しくはないのだが、そこには『メドルカ』と言う名のやきそば屋台があって、律佳はそこを指差し、僕の腕を強烈な勢いでミシミシと潰し、猫なで声でそう要求していた。本人には、きっと僕の腕をへし折るつもりはないんだろうが、このままでは絶対右腕が死ぬ。
そもそも何故食いたい等とコイツがほざくかと言うと、珍しいモノ好きだからだ。普通そこには、クレープ屋か、アイスクリーム屋、またドーナツ屋があるはずなのだが、今日はやきそば屋。よりにもよってやきそば屋…!クレープとか売ってた方が売れるだろうが!!
とにかく、珍しいと言うことだけで買わされるハメになるとは、全く頭に来る話だ。恨む、やきそば屋
屋台の前まで来ると、店主はにこり笑いながら、注文を聞いてくる。
「へい、らっしゃい。なににいたしやしょう?」
「やきそば二つー」
「いや、僕はいいよ」
「いいから〜」
なにやらわくわくしている律佳。一体何を企んでるんだ!
しばらく待っていると、おまちどーと言いながら、店主は透明のプラスチックトレイと箸をゴムに巻いて、律佳にやきそばを手渡した。
「ハイ、お代だよ」
ってえぇ!?
驚くことに、律佳がお代を払ってしまった。
店主はにこやかに微笑みながらも、暗黒のオーラで僕の目をギラリと見た。恐ろしい誤解を招いているようだ。女に払わせるのが相当キライな性質なのだろう。
「い、いや!これは違うんですよ!ワザトじゃないっ」
必死に弁解している耕輔の隣では、右手と左手に一つずつ、出来立てのやきそばを持って、はてなマークを頭に植え付けている律佳が、ぼけーっとその様子を眺めていた。
「なにやってんの?帰るよ」
突然律佳が耕輔にタックルし、器用に彼をおぶると、びゅんと言う風の音共に消えて行った。
机に向かい合って、耕輔と律佳は、やきそばを食べていた。いや、食っているのは律佳だけで、耕輔はまだ手をつけていない。
「おいしいね〜」
「うちに帰って食うもんなのか…?屋台ものって…」
にこにこ笑いながら食うコイツの耳には、届いていないようだ。
「まあ…そんなことより…なんで金払ったんだ?」
理由もわからないし、第一そのおかげで店主には恐ろしい目で睨まれた。
律佳はやきそばをずーずーと吸いながら、キョトンとした。
「いっつもお世話になってるし、それに、お金のことになると、こうすけえらい顔になるでしょ?」
そんな顔、してたか?しかし、そうだとしたら、結構人の顔見てんだな。……。いや、いっつも見てるな。コイツは。
どっちにしろ、ここは素直に礼を言ってもいいか。
「…まあ、ありがとう」
「どういたしまして。あ、いらないんなら食うよ!」
そうゆう魂胆かいっ!
「頂きます」
「ちっ」
とりあえず余分な出費が出なかったから、良いとするか。