其の十一の四
「試験て・・・アレでしょ・・・?」
ゆっくり耕輔の横を通り過ぎていく律佳。
「あれって・・・?」
どうやら律佳も知っているようだ。試験のことを。律佳が意味深に言う。
「・・・。うーん・・・確かに一緒にいたいけど」
耕輔もゆっくりと歩き出して、律佳の隣に並ぶ。
「・・・だろ?いきなりサヨナラって嫌じゃないか」
「けどさ・・・」
彼女は言いかけたが、それを中断した。
「・・・分かった。試験やろっか!!」
カラ元気でガッツポーズを取る。だがその風は無理をしているようにしか見えない。
「無理すんなよ」
「無理じゃないよ!・・・私もこうすけも一緒にいたいんだもん。いいじゃん、それで」
確かに理由は、それでいいんだと思う。いいが、律佳は今嘘をついていそうだ。コイツは嘘をつけるヤツじゃない、そのせいかさきほどからほころびだらけだ。
「嫌なら嫌って言えよ。理由だけでもいい。このことは俺とお前の問題だか――」
「違うよ!これは私の問題!だってそうでしょ?私が選ぶんだから!だったら試験やるよ」
とてもヤケに見える。全く、律佳らしくない。
「落ち着け・・・とりあえず」
「落ち着いてるもん・・・」
ガクリ肩を落とした律佳と共に、とりあえず家に帰ることにした。話しは今日中にまとめればいいと、耕輔は簡単に考えていた。
しかし“今の”律佳には荷が重すぎたのだ。
耕輔宅の夕飯、それも鏡と雄谷がやってしまっていた。ハンバーグというのはいかがなものかと思ったが、おいしいかったので文句は言わないことにした。
「私・・・ちょっと疲れたから。先お風呂入るね」
席を立った律佳に雄谷が止めに入る。
「待って下さい。僕のデータエラーが検出されています。あなたはこれをいとも簡単に平らげるはず。なのにまだ半分も」
「うるさいな・・・。お風呂に入るの。それ誰か食べていいから」
律佳は頭を掻きながら、大きなリボンを床に放った。ばさっと大きな髪が揺れ、そのまま彼女は廊下に消えた。
「・・・・・・」
今日の律佳はホントにおかしい、耕輔は思っていた。うるさい、なんて律佳から聞いたこともないし、疲れたってのも聞いたことがなかった。そして食事拒否。ありえないこと尽くめだ。まるで恋に悩む平凡な少女のようである。
「俺には分かるぞ」
と鏡がハンバーグをナイフで切り裂きながら言った。
「恋に悩むとは、一概には言えない。人それぞれで違う悩み方をするからだ。だが思いつめると苦しくなる。あらゆる重病より重いものかもしれん。なにせ“治癒の方法”は十人十色で、しかもタイミングときっかけを誤ると、さらに苦しむ可能性がある」
鏡はハンバーグを口に放り込んだ。
「絶対などない。あやふやで、曖昧で、また不確かな炎。それが恋だ。いいか。余計なことはするな」
彼は耕輔に向かって言った。
って僕に言ってるんだそれ・・・。
恋・・・か・・・。何故こうも冷静に考えられるか分からないけど・・・きっと彼女、律佳の片思いの相手は・・・僕だろうな・・・。