表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変な学校  作者: akaoni0026
3/61

其の三

 校門を抜けると、智香はすぐさま律佳の下駄箱を覗いた。

「まだ来てませんね…」

 悲しそうにうつむきながら、耕輔のもとへと戻る。

「どうせ、まだ来てないんだろ?」

 こくり彼女が首を縦に振ると、耕輔はため息を一つついて、教室へ向かった。


 耕輔は席に着き、鞄の中のノートやら教科書やらを机に詰める。そのおり、男子生徒が机の前に立った。友人の、真鯛(まだい) 雪也(ゆきや)容疑者、無職――

「また変な想像してるだろ」

 はっとして、耕輔は首を振った。

「そんなわけ、ないだろ」

「どうかな…」

 苦笑いしてから、彼は隣の空席を見た。

「律佳ちゃん、まだなんだな」

「ああー、せいせいするよ」

 雪也はムッと声を強ばらせた。

「何言ってるんだ、それでも律佳の彼氏か?」

 彼氏…彼にとっては冗談かもしれない言葉は、耕輔にとってとてもつもなく苦痛だった。冗談であるか本気かは関係無しで、とにかくそれを律佳の耳に入ることだけは防ぎたかったのだ。しかしそれも過去のこと。

 雪也に対し、少し前までは、律佳の目の届く範囲内で、その彼氏と言う言葉を口にするなだの、絶交するだの、あの怪物のようにしてやろうかと言ったものだが、律佳本人が彼女、彼氏の意味を全く解していない様子につけて、口癖のように雪也に彼氏彼氏と呼ばれると、気だるくなって、否定しないようになったのだった。

 話を戻そう。

 ムキになる雪也に、耕輔はは〜んと不気味に笑った。

「な、なんだよ」

「なに?律佳のこと好きなのか?」

 雪也は軽く首を振った。違うようだ。

「ノンキなこと言ってるなよ。もしヤツらが来たら、俺たちじゃ犬死にだ」

 ヤツらとは、無論怪物のことだろう。その前に、そもそもなぜ怪物がいる学校に来なければならないのか…なんてことを考える人間はもういなかったりする。

 カンタンなことだ。生徒が学校に通わなくなった市町村は、なくなったからだ。人が、みんな。その惨憺たる有様と言ったら…語る舌も持たないが、語られたくもないだろう。とにかく、そんな感じで皆ライドに頼っているわけで…

「まあ…」

 雪也がこう言うのも、ごく自然なこと、ということだ。

「早く呼び戻せって」

「って言ってもなぁ…」

「?」

 ふぅ、と一息つき、耕輔は彼に朝の出来事を話した。

「はあ…」

 話を終えた頃には、彼は目を真ん丸くしていた。

「まさか智香さんが…」

 運転手の無事とこの学校の無事より、智香の大胆で恐ろしく秩序ある行動に驚いているようだった。ちなみに、智香はライドだが、戦闘用ではないので、律佳の足元にも及ばない。

「ってことだから、律佳はスグ帰ってくるよ」

「ああ…」

 彼は半ば放心状態で、自分の席へ戻って行った。


 結局律佳が登校したのは、丁度怪物が現れたときだった。学校中の怪物警戒サイレンが鳴り終わった頃だ。

「お待たせー」

 楽しそうに教室に入る律佳だが、そこには耕輔と雪也以外誰もいなかった。

「あれー…」

「遅かったな、律佳」

 耕輔が言った。

「みんなは?」

「グラウンド見なかったか?」

 雪也が言う。

「うーん…ちぃちゃん+知らない人がいっぱいいたよー」

「……」

 耕輔と雪也は同時に困惑した。まさか、学校の者を知らないと言うとは。

 律佳ははてなマークをちらほらと浮かべ散らし、首を傾げた。

「ま、まーとにかく。グッドタイミングだ。律佳」

 耕輔が焦りながら言った。

「そ、そうだ、律佳ちゃんなかなかツイてるね」

 雪也も焦っていた。

「なにが?」

 律佳が疑いもなげに二人をポカンと眺めていた。


 2年4組教室前、つまり、耕輔たちのクラスに突如現れた怪物は、当然2年4組の絶体絶命を作り出した。しかし、智香がオトリを果たし、今怪物たちを、一階下の2年2組教室前におびき出したという。恐らく、智香のサポートアビリティ、『ダミーウィンド』で、怪物の視覚に幻を映し出し、それを足止めとして怪物のオトリにし、ヤツらの足を止めていると思われる。幻覚を完全に“人間”と錯覚している怪物たちは今、その幻覚を斬りたくっていることだろう。

 耕輔と雪也は、律佳をそこへ案内した。

 その幻覚を見る怪物を見るなり、律佳は首を傾げた。

「なにやってんだあいつら」

 誰もいない、ましてや見間違うほどの物も無い空間に、五体ほどの怪物がこぞって鎌を振り下げている。その特定の部分は穴だらけ、見るも無残になっていた。

「さっさとやれ」

 僕が命令すると、律佳はどしぶい顔になった。

「ヤダ。何かつまんなそー」

「つ、つまんなそうって…」

 つまんなそうで、何人死にかけてると思ってんだよ…。

「さっさとやれって」

「あいー」

 お?珍しい。と思えたのは束の間だった。

「やいコラァ!!こっちむけやー!!」

 大声で思い切り挑発気味に宣言する律佳。

「お、おいおい…」

 雪也は顔が青ざめ、一歩後ずさった。

「はぁー…」

 何故か展開が読めていた耕輔は、肩でため息をついた。

 だが怪物たちは気付く様子もなく、そこをドカドカと叩きまくっていた。見ていると、なんとなく健気に見えてくる。

「…何だか可哀想だな」

 一言、耕輔が、雪也に聞こえないほどの小さな声で呟いた。律佳の大声の挑発は全く気にしなかったくせに、耕輔の呟きは、怪物たちの赤い目をギラリと光らせた。なんだろう。“可哀想”と言う言葉に反応したのだろうか。まさか。怪物が人語を理解できるはずがない。

 …じゃあ、

「…なんで」

 困惑する間もなく、律佳が、耕輔、雪也の前に立った。そして怪物たちに負けないほどの、ギラギラとした眼光、何故か手をニギニギして豪快に白い歯を見せ付ける。

「さぁ!!殺してやる!!」

 ――…やっぱり可哀想だった。


 律佳は昨日の勢いで怪物らを惨殺した。何かの18禁映画のワンシーンの様に残酷だったのは言うまでもない。

「いつ見ても恐ろしい…」

 振り返った悪魔(少女)の姿を見て、

「殺しっぷりだな」

 本当に僕は思う。律佳はやっぱり緑まみれで、だが、お手洗いを済ませた様なスッキリとした顔をしている。

「で…」

 振り返り、雪也を見やる。雪也はあの状態、一歩後ずさったままの状態で、固まっていた。目がウロコになっている。

 目からウロコとは聞いたことがあるが、まさか目がウロコとは……。

「何か捉え方間違ってるな…」

 そう思いながら、僕は怪物たちの掃除を始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ