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変な学校  作者: akaoni0026
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其の九の十四

「ヤ…ヤだよ、こうすけ…私…」

 自分をただの兵器として見られたくないのだろう、律佳は目を潤ませ、耕輔の目を覗き込んだ。

「律佳…」

 耕輔もその意味を分かっていた。ここで彼が、彼女をライドとして…つまり兵器だと受け取ってしまえば、智香の言うように、きっと“壊れ”てしまうのだろう。

 今すぐ。ここで。智香、耕輔の目の前で。

「耕輔クン…どうか…律佳ちゃんを…」

 認めてください、智香がそう言いたいのは分かる。嘘をついてでも、ここは彼女を兵器以外のものとして認めてあげるべきだ。それが人間の優しさでもある。

「律佳…お前は…」

 お前は…そう、


「……ライドなんだよ――」


 およそ期待はずれだった。そんなことを言うはずがないと、智香は思っていた。

「こ、耕輔クン…?そんな…」

 彼女は目を見開き、律佳はまるで心臓を一突きされたような表情になっている。

 耕輔は律佳を見下し、冷たい表情のまま言った。

「お前は…怪物を殺すとき、無常の快感を覚えていたハズだ…」

 そう知ったのは彼女と最初に会った五ヶ月前だ。

 彼は彼女を、背の低い普通の少女だと思っていた。しかし彼女は、対怪物人型兵器、ライドだと言う。

そのときはとてもそう思えなかった。

 が、それを思い知らされたのは、その当時恐れていた怪物を、その少女がニヤつきながら潰している様を見たときだ――。

 その顔は無邪気で、生命を奪っていることを感じず、子供がモノを壊しているのと変わらなかった。

 今もそうだ。怪物を殺すとき、無邪気に笑いながら…。

 いつの間にか、律佳は腕にすがりついて頭を振っていた。

「こうすけ、こうすけ、私、カイブツ殺すとき、そんなこと思ってないよ…」

 悲しい、と言うより、“助けて欲しい”。そんな顔だった。

 溺れているところを耕輔が通りかかり、必死に助けを求めているような。

「違う…。お前は、怪物を殺して、とてつもなく快感だっただろう…?」

 彼女はそれでも頭を振り続ける。


 それら見て智香が悲壮な顔をし、堪えれきれずに叫んだ。

「こ、耕輔クン!!律佳ちゃんを壊すつもりですか!?や、やめてください!今律佳ちゃんを助けることが出来るのは――!!」

「壊れるんなら、一層早く壊れてくれよ…」

「なっ…!!」

 まさかそんなに冷たい人間だなんて思わなかった…。

 智香は“耕輔”と言う人間を見誤っていたらしい。そう、自己中心的で、大事なモノが自分の思っているモノと違うと思えば、ポイと捨てるヤツだったのだ。

「ああぁ…あぁ…!!そんな…!!」

 やはり律佳を眠らせてあげるべきだった。もう少し作戦を完璧にしていれば…。

 目の前で律佳がガクガクと震えている。耕輔に言われる暴言を必死に抵抗し、耐えている。

 見ていられない。

「やめてください!!」

 律佳を耕輔から引き離し、彼女をぐっと抱く。

「あなたは悪魔ですか…!?いらないモノなら、さっさと捨てるんですか!?」

 耕輔は怪訝顔をして、

「何言ってるんだ?」

 そう言った。

 よくもそんな…!!

「こんなにも律佳ちゃんはあなたを慕っているのに…どうしてそれを…!!」

 耕輔の表情は変わらない。意味が分からないといったふうに。

「無駄だ…」

「えっ…」

 そう言ったのは耕輔ではなく、無線で“ダーハン”と呼ばれていた大男だった。

 智香はとてつもなく焦った。これは計算外だったのだ。勿論、耕輔がそんな人間だったと言うことも

「…キョウさん!?な、なにしてるんですか!!隠れてないと…」

 彼――キョウと呼ばれた男はフッと笑って、視線を耕輔に向けた。

「伊井森 耕輔。気持ちは分からなくもないが、諦めろ」

 耕輔は突然現れた大男にフルネームで呼ばれ、焦ったが、その的確で根拠のない言葉に驚き、冷静になった。

「諦めろって…どうして」

「お前が言った通り、律佳はライドだ。それで全て説明がつく」

「あ、あなたたちは何を言って…!!」

 智香は律佳を抱いたまま、二人の顔を交互に見て、より悲壮な顔をした。どれもこれも計算外で、しかも言っている意味が分からない。

「まだだ…まだ、分かんないだろ!!」

 突然張り上げた耕輔の声に、智香はビクリと肩を震わせた。そこまで声は大きかったし、怒りが表面に現れていたのだ。

 ダーハン――キョウと呼ばれた大男は、表情を変えずに、

「分かる。彼女はもうすぐ“壊れる”からな」

 智香はハッとして、抱きかかえている律佳を見た。すでに律佳の目は見開かれて、分析エラーの字を羅列させていた。体も痙攣して、ガクガクと定期的に震えているだけだった。

「律佳ちゃ…ん…?」


 返事はない。

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