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変な学校  作者: akaoni0026
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其の九の十三

「着いたな…」

「うん」

 さも当然と平然に返してくる律佳が相手では、今の状況を呑むことは出来ないなと耕輔は思っていた。二人は銃撃をかわし呆気なく第二校舎に侵入出来たのだった。それが何だか腑に落ちない。銃撃までしてきて、これ以上何もないとは、気が抜けてしまうと言うものだ。

 それにさっきまでは怪物に殺されかけていたと言うのに、緊張感ゼロで。

 それもこれも律佳のおかげでここまで来れたのだろうが、コイツときたら・・・。

「ねー、お腹すいたー」

「我慢しろよ…」

「えー。やーだーよー、何か食べなきゃ死んじゃう」

 冗談とは言えそれすら絶対ないと今日確認出来た耕輔は、改めて、律佳の恐ろしさと呆れを感じていた。

「帰ったらラーメン三杯作ってやるから…」

「マジ!?ヤッター!!さっさと終わらせよーぜ!!」

 途端に耕輔の前を、腕を回して歩き始める彼女。

 ホント調子いいヤツ…。早くいつもの律佳に戻ってくれーって思ってたけど、戻ったら、コレだもんな…。

 安堵したのか呆れただけなのか、耕輔はふかぁいため息をついた。


 捜索を始め、すぐのことだった。第二校舎三階の窓辺に、見覚えある姿があった。

「智香…」

 こちらに向き直り、どこか憂鬱な眼差しを、こちらに向けてくる。いつの間にやら窓の外は真っ赤になっていて、その赤が、彼女を一層鬱気に見せていた。

 律佳はそんな智香を直視出来ないでいる。

「律佳ちゃん…耕輔クン…」

「智香…やっぱり…?」

「…すいません…」

 やはり、全てを仕組んだのは智香だったようだ。あっさり謝ってしまうということは、そうゆうことだ。

「全て、私が…」

 しかし、やはりどこかに疑問が残る。

「…どうしてキミが…あんなにも律佳を慕っていたのに…」

「実は…」

 智香は理由を語り始めた。勿論、律佳の殺人未遂、について。その時律佳は、わずかにブルルと震えた気がしたが、勘違いだろうか。

「…実は、律佳ちゃんは…引退なんです」

「引退だって…?」

 引退…。その言葉に引っ掛かるような言葉はない。

「ええ。よく、分からないとは思いますが…律佳ちゃんは…。もう、ここには必要ないんです」

「何だって…?それは…どうゆう…」

 すぐにピンと来た。つまり律佳は、この学校にもう必要がなく、他へ回されると言うことだろう。

「分かるんじゃないですか…?耕輔クンなら…もう、五ヶ月なんですよ…?」

 彼女は頭がいい。だから、律佳の殺人計画は、完成に近かった。ともすれば、耕輔の考えなど、軽く見透かしてしまうだろう。耕輔はかすかに呻き声を上げ、

「…わ、分かってる。分かってるけど、どうしてもういらないんだ?まだ怪物は出るんだろう?国に言や、それくらい取り消してもらえるぞ…?」

 そんなことくらい智香にも分かっているだろうに。

「無駄ですよ。私の開発していた“対怪物情報色彩風薫”が完成したんですから。これからライドは用なしになるはずです…そして、平和に…」

 耕輔は言い返せない。確かにそれは平和の一歩だ。もうライドと言う人工生命体が必要ないと言うのは…。

 待てよ…?

「智香」

「はい」

「答えになってないぞ」

「え…?」

 僅かに智香が困惑する。

「俺は、“どうしてキミが律佳を殺そうとしたか”を聞いている」

「……」

 彼女は顔を伏せ、目を細めた。

「その…」

 言いにくそうに、チラと律佳を見る彼女。

「…律佳ちゃんが壊れるのを、見たくなかったから…」

「壊れる…だって?」

「はい…」

 隣の律佳を見る。ぶるぶると、寒くもないのに震えている。妙な汗もかいているようだ。

「律佳…?」

 律佳はぎこちなく笑った。

「ん、ん?なぁに、こうすけ…」

 何かに怯えている…そんな律佳を見るのは初めてだが、見るからにそう感じた。

 と言うことは、さっき震えたように見えたのは勘違いではなく、この話しを知っていたから…つまり律佳がお役御免だということを、律佳自身が知っていた…?

 これについて、つじつまが合う律佳の不可解な行動が二点、耕輔の頭に浮かんだ。

 一つは、他の学校に救助へ行きたくないと、かたくなに拒んだこと。

 二つは、やきそばをおごってくれたこと。

 律佳はそんなに気の回る人間ではないし、それに嫌なものは嫌だとハッキリ言う。けれど、この二点は、なんとなく不自然に思えてならなかった。

 しかし、今それを律佳に問い詰めてもただ可哀想なだけだ・・・隠してまで、一緒にいてくれて、慕ってくれていると言うことなのだから。

「…で、智香、どうゆうことだ?それは」

「……。それは…耕輔クンと離れることを…律佳ちゃんが拒絶しているんです…」

「拒絶…?」

 人間で言う、別れが惜しい、とかそういう次元か?なら…

「そういう体験も必要だと思うが…」

「違うんです。律佳ちゃんは、“別れ”と言う認識プログラムを組まれていないんです」

「……?」

 プログラム…。ここで耕輔は、律佳を初めてライドだと感じた。いや、感じざるを得なかった。

「今の律佳ちゃんのプログラムには、確かに“別れ”と言う認識はあるんですが、その…五ヶ月もいたこの土地、学校、生活、そして…あなたとの別れと言うのは、膨大すぎて予測外だったんですよ」

 よくわからないが、とにかくこういうことは初めてで、そして考えてなかったのだろうと理解した。

「…だからなのか?律佳を殺そうとしたのは…それが理由?」

「はい…」

 その智香の理由に、耕輔は怒りを覚えた。なにせそれは、

「お前がそんなに、律佳のこと信じてなかったなんて…な」

 彼女はハッとして、頭をブンブンと振った。彼女も意味するところが分かったようだ。つまり律佳の精神力は、それまでだ、と、彼女は考えていたと言うことになる。

「ち、違います!!律佳ちゃんが壊れると言うことは…!“死”よりも辛いんですよ!?」

 それは確かにそうだ。人間でも、慣れ親しんだ人との別れは、時に死よりも辛い。だが、

「それは違う。コイツがどこまで頑張れるかで――」

「違います!!律佳ちゃんはライドなんです!!人間じゃないんですよ!!!」

 泣きにも近い智香の声で、びりびりと廊下が揺れた気がした。

 ――そう、そうだった。この隣で震える少女は、所詮怪物を殺戮するための兵器――ライドだ。

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