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変な学校  作者: akaoni0026
18/61

其の九の十

 第二校舎三階の窓辺、第一校舎を悲しげに見る少女がいた。

「律佳ちゃん・・・」

 智香である。彼女は青い瞳を涙で潤ませて、ずっと第一校舎を眺めていた。

 その隣には、“ダーハン”と呼ばれた男が立っている。

 智香はそのダーハンと言う大男に向き直り、泣きを抑えながらも、しっかり睨み付けた。

「どうしてあなたは・・・ッ!!こんなことをさせるんですか・・・ッ!!」

 大男は智香を一瞥し、微笑も浮かべずに、

「何を言う。お前もこれを望んでいたのだろう」

 ひどく機械的で、感情のカケラさえない声だった。

「違う!!私はこんなことを望んでなんかいません!!」

「嘘をつけ。では何故俺に協力をした」

「ッ・・・それは・・・!」

「それは。何だというのだ」

 智香は必死に涙を抑えるが、目から大粒がぽろぽろとおちていく。口からも、ひっ、ひっ、と嗚咽が漏れてしまっていた。

「私はぁ・・・ッ!!」

 ぐっと拳を握り締めて、大男の目をギリと睨みつける。最大の怒りをもって。

「私は、律佳ちゃんが死ぬ以上に、律佳ちゃんが壊れてしまうのを見たくなかった!!!」

 大男はその怒気を少しも感じられず、変わらぬ真顔でいた。

「どうゆうことだかわからないな」

「大体、あなただって・・・!みんなを人質にとりながら、そんなことがよく言えますね!!?」

「保険だ」

 智香はそう、この大男と手を組んで、律佳を殺そうとしていたのだ。耕輔と律佳の予想とは違うが、おおよそ外れではなかった。しかしだ。

 智香とて律佳を意味なく殺す器ではない。律佳を慕い、律佳の為に何でもして、いつも微笑んでいた彼女が、まさか理由なしに律佳を殺そうとしない。

 智香はこの大男に脅されていたのだ。協力しなければここの職員以下生徒全員を殺す、と。それに付けて、封をしていた、試作の律佳殺人用、“情報色彩風薫(じょうほうしきさいふうか)”まで、いつの間にやら奪われてしまっていたのだ。

 もはや協力しなければ、律佳だけではない、耕輔、先生、友達、同級生、その他大勢の人が死んでいた。

 なのにこの男きたら、それでも“お前が望んでいたことだろう”などとあられもないことを言ってくる。人間じゃない。ただの機械だ。

「そういえば、俺の目的を言っていなかったな」

 智香は押し黙って、口を開こうとしない。語り合うのもおぞましい。男は構わず語り続けた。

「俺は復讐をしに来た。律佳。あの悪魔に」

 智香は一向に口を開けないが、脳裏では、何故かおぼろげながらがそれに覚えがあった。だが男の口からは、智香などと言う言葉は発せられていない。

「あれは五ヶ月前のことだ」

 五ヶ月前。丁度律佳と智香が耕輔に託された月だ。

「彼女がここに配属される二日前。あいつは内にある機械的理解を示した人間を暴走させた。もちろん故意でないことは分かっている。しかしあいつは」

 ここで初めて感情が見え隠れする淀みをもたらすと、しかしすぐ感情は消えうせた。

「あいつはあろうことか生みの親を数人殺し、俺と“雄谷”まで殺した。それに」

 また一旦止めて、大きく息を吸い込み、ごくと息を呑んだ。頭に過去が回想される。

「私が親愛した女性ライド・・・。“律佳”までも、殺した」

 聞き終えたころには、智香は別の理由で涙が止まり、背筋を凍らせて、目を大きく開いてうつむいていた。

「やつが暴走した“機械仕掛け”の人間は、記憶とともにその精神までも破壊し、彼女の性格までもを捻じ曲げてしまったのだ」

 つまり、律佳と言うライドは、その後この男のことを完全に記憶から抹消してしまい、彼女のその性格自体でさえも維持出来なかったわけだ。それは他人というにふさわしい。

 こぉと風が吹きぬけ、廊下がびりびりとした空気に包まれる。

「過去、例として助かった三人のライドがいる」

 それは智香も知っていた。だが頭が正常に働かない。だって・・・。

 男は智香を一瞥もせず語り続ける。

「俺と“雄谷”と、そして彼女。律佳だ。そして俺は、彼女の仇を討つために、彼女を殺す」

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