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変な学校  作者: akaoni0026
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其の九の九

 どかんと後ろの壁が崩壊した。奥から現れたのはさきほどの怪物だった。よく見ると、いつものヤツと違い、緑の殻ではなく、赤かった。それに角のような突起が赤い目と目の間の上についている。

「あれでやられたら・・・ひとたまりもないな・・・っ!」

 耕輔はあの後、ずっと走り続けていたが、怪物は直線に耕輔らを捉え、壁を崩して最短距離で襲ってくるため、逃げ切れないでいた。

 背中の律佳はダランとし、だが耕輔を抱きしめ、泣き続けていた。手に力はなく、本当に弱弱しく抱いてきているのがとても痛かった。

「律佳、シッカリしろよ?何とか成るから・・・」

「こうすけ・・・こうすけぇ・・・」

 呼びかけないと死んでしまいそうな・・・。いや、律佳は死なない。放っておけば、ただ機能停止するだけだ。再生は勿論出来るらしいが、過去の例において3回ほどしか成功していないらしい。0.5%の可能性だ。だが関係ない、耕輔にとってもう律佳は人間と同じだった。殺されたら、死ぬ。それに、

 ここで律佳を殺されたらどうなる!?この学校は!みんなは!?

 それ以上に何か、執拗に律佳にこだわる何かがある。よく分からないが、これは恋心ではないことだけハッキリしている。では何なのか。考える余裕もなく、また考えても、決して分かるわけでもなかった。

 階段を駆け抜け、二階へ行く。怪物はその後をするするとついてくる。

「早いな・・・ちょっと・・・」

 意外な怪物の進行速度に、幾度目の冷や汗をかいた。

 時間の問題とは分かっていても、どうしても諦めることは出来ない。せめて智香に理由を聞きたい。

 うわっ・・・!?

 生徒のゴミだろう、耕輔はコンビニの袋に足をとられ、倒れた。

 反動で律佳が廊下に投げ出され、勢いよく壁に打ち付けられた。

「ぅぐぁっ・・・!!」

 小さい悲鳴をあげて、律佳はさらに息を荒くさせる。

 耕輔本人は、ひざを打ち付けただけでどうという事はなく、すぐさま律佳に駆け寄って上半身を抱えあげた。

 目からうっすらと涙を流し、頬をを赤く腫らして眠っているような顔だった。

「だいじょぶか!?律佳!!」

 律佳は答えず、ただ辛そうに荒く呼吸をしている。

 程なく後ろから、ジュルジュルと音を立てて怪物が上がってきた。もうこちらが逃げないと判断したのか、ゆっくりと迫ってくる。

「く、くそっ・・・」

 武器も使えるものもない・・・いや?一つある!

 耕輔は廊下に備え付けられている消火器を持ち、一応構えた。だが構えていると言うよりはただ持っているようにしか見えない。

 少し経ち、意を決すると、耕輔は消火器を持って怪物に突撃していった。中身をぶちまけることも出来たが、無駄だろうと思ったのだ。先の逃げの道中では、怪物は壁を破壊して来たあたり、音に敏感だと判断したからである。

 突撃したのはいいが、あっけなく彼は、鎌の逆手で弾き飛ばされた。

「うわぁっ・・・!」

 とてつもない衝撃に弾き飛ばされ、ドン、と教室の壁に打ち据えられる。背中に痛烈な痛みが走った。

 消火器は律佳の倒れている横を滑って、およそ届くことないところまで転がって行ってしまった。

「つつつ・・・」

 知らずに耕輔は、背中を押さえながら目を開く。

 目の前にはすでに怪物がいた。あまりの恐怖に、声が出ない。

 赤い目がこちらをギッと睨みつけている。

 ・・・早く殺せよ・・・。律佳の最後は見たくないんだ・・・。

 心内でそう叫んだのが通じたのか、怪物は早々に鎌を振り上げた。


  鎌が鋭く耕輔を貫かんと振り下ろされた。

 ヒュン、ドゴオオン!!

 廊下が砕ける音がして、その場は静寂に包まれる。

 

「・・・・・・?」

 死んでいなかった。

 悪運が強いとも思ったが、やはりおかしい。

 恐る恐る目を開けると、怪物は外したのか、耕輔の顔の真横に鎌が突き刺さっていた。

「やっぱ・・・偶然か・・・?」

 様子を見守る間もなく、怪物が突然、背中から血を吹いた。緑の血液がどろどろとしながらも、勢いよくぶちまけられる。

 怪物はギャオオォとかすれた悲鳴をあげ、耕輔に背を向け、自分を攻撃したであろう人物を探した。が、怪物が見えぬ力にまた攻撃を加えられ、グラリと体を揺らされると、また勢いよく血を噴出した。叫

びをあげて、それでも怪物は敵を探し続けたが、そのうちぐったりと身を斜めに傾かせた。

「・・・・・・」

 その様子が把握出来ない耕輔は、とりあえず立ち、怪物をジィっと見た。背中がとても痛むが、興奮状態において、痛さを忘れていた。

 怪物は動かず、緑の血をだらだらと噴出しているだけだった。傷口もよくわからない。大きすぎて。何かの反動で衝撃が起こり、大穴を作っているように見える。

 カツン、と廊下に響く音がした。耕輔はまた恐怖感に襲われ、その方を見たが・・・。

 とても信じられない光景だった。

 律佳が、ゆらゆらと、安定しない足取りだが、立っていたのだ。体に怪物の血を被っている。

「コウスケを・・・コロスな・・・」

 誰の声だか分からないほど、律佳の声は低かった。いや、確かに声は律佳だろうが、元気がないとは言え、あまりに違いすぎるのだ。

「コウスケをコロ、ス、な・・・・・・コウスケをコロ、シ、ス、たら、ワタシは、オマエを、抹消ス、シ、る・・・・・・」

 瞬間、律佳は糸の切れた人形のように、どさと廊下にくず折れた。耕輔はそれをぼーっとみやっていたが、頭をぶんと振って、とにかく律佳に走った。

「律佳!」

 前のめりに倒れた律佳の上半身を表に向け、抱き上げる。ガクと首が重力に引っ張られていた。

「お、おい律佳!!」

 体をゆするが、律佳はその振動に身を任せるだけで、その眠りを破ることはなかった。

「嘘だ・・・!!嘘だぁーーーーーーーーーっ!!」

 静寂の場に大きな悲しみが貫かれた。

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