表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変な学校  作者: akaoni0026
11/61

其の九の三

「ほらほら!遅刻するぞーっ!!」

「うわーーっ大変だーっ!」

 律佳が玄関を走り出て、俺の後ろに続く。

 とりあえず今日も、“遅れるかも知れない”と言う、意味はないが、律佳があらゆる行動を中断してでも急行する言葉でごまかし、学校に向かう。まだ限りなく、走り始めのことだ。

 そこへお隣さんの智香が、何故か上空から降りてきて、格好良く着地し、ダッシュで耕輔と律佳に並んだ。

「おはようございます!律佳ちゃん、耕輔クン!」

 彼女は息も切らずに笑顔で挨拶してきた。

「あ、ああ、うん、おはよう!智香さん!」

「おはよ、ちぃちゃん!」

 とりあえず二人とも、ダッシュしたまま挨拶する。この変な状況で誰も突っ込まないのは、唯一の突っ込み役である耕輔が、今日意図的にボケているからである。

 とりあえず、智香の意味不明な行動を解説しよう。

 智香は何故か、あらゆる行動を駆使してでも、律佳と耕輔に続き、登校しようとする、律佳の世話用ライドである。ただその行動、本当の意味で合点がいかないと言うわけでもない。行動を見ていると、ただたんに律佳と登校したいだけであろうということが、分かってしまう。嫌でも分かる。ただ例外があるようで、律佳が何らかの急用で学校へ赴けない場合のみ、智香は耕輔とともに登校する。

 不完全な説明であるが、これで智香の朝の行動は理解出来たであろう。

「出来ないって!!」

 そう叫んだのは耕輔である。

「いえ!やるんです!律佳ちゃんと私なら、不可能なことなんて・・・!!」

 目の前で踏み切りが閉まろうとしている。あとその踏切まで約10m程度。その場所から、今から閉まらんとしている踏み切りを突っ切ろうと言うのだ。別段意味はないのだが、律佳が急いでいる=智香も無理難題があろうとついていく、と言うなんとも不毛な図式で、この会話は成立している。

「いや!お前たちが出来ても、俺が出来ないって言ってるんだ!!」

 諦めてダッシュを止めようとしたした瞬間、後ろから強烈な衝撃が来た。背中の一部のみを強打されたようで、その勢いは、電車が走り抜けていくその上の電線をも、をひょいと飛び越えるほどであった。

 本人にしてみれば、突然飛んだと言う恐ろしい体験でしかなかったが。

 その本人、耕輔は、そのまま地面に、落ちた。倒れたときうつぶせの状態だったと言うのは言うまでもない。

「イデェェ・・・」

 イデェェで済んだのは、耕輔だからである。通常の人間なら、体中の骨が折れていることだろう。皮膚もえらいことになったと思われる。

 その両隣、痛む耕輔を挟んで、律佳と智香が手を叩き合わせ、喜び跳ねていた。

「やったね!律佳ちゃん!」

「うんうん!私ナイスショットだった!」

「・・・・・・」

 耕輔はそのまま前進して、パンパンと制服を手ではたいて、歩き出した。

「こうすけ〜、すごかったよー!」

 律佳が、四角いかばんを、両手でスカートの前で持って、耕輔の隣に並んだ。

「・・・何がすごかったんだ?」

 むすりとして聞き返す。

「だってね、だって、こうすけ蹴ったら、みごとに“線”にひっかからず、飛び越えたんだよ!?」

 ああ、やっぱりか。と耕輔は思った。ちなみに律佳の言う“線”とは、電車の電線のことだ。

 この痛烈な背中の痛みは、律佳の蹴りのせいだったか。

 そんな常人離れした考えを、この馬鹿なら思いつくだろうと、もう分かっていた。まさか蹴っていたとは思わなかったが。

 耕輔の表情に出た明らかな怒りに構わず、律佳は語り続けた。

「でね、やっぱりこうすけの言う通り、あの“棒”は走って通れそうになかったから、跳んじゃった」

 跳んじゃった、じゃねーーーーっ!!

 と内心地団駄を踏みまくったが、言っても論争にすら発展しないので、言わない。

 と、その後ろから、智香が駆け寄ってきて、耕輔の背を撫でた。

「大丈夫ですか・・・?」

 ああ、やっぱり智香さんは普通の人だ・・・!目頭が少し熱くなったところで、恐ろしい一言が。

「・・・穴は、開いてないみたいですね。良かった。新しいの買わなくて済みますね」

 僕の顔を覗き込んで、にっこりと微笑んだ。

 ああ。やっぱり?僕のことは心配しないんだ・・・?

 何だか一人、一喜一憂しているようで、気持ちがどんよりした。が、とりあえず学校に向かうことにする。ガックリと肩を落としながら。


 その近くのどこかの屋上、あの大男が無線を開いた。近くにライフルがセットしてあり、キッチリと固定されている。

「こちら、ダーハン1からダーハン2へ。やはり完全に露呈している」

 無線機の奥から、昨日と同じ少年が、抑揚のない声で返してくる。

「ダーハン2。認められません。その事実を裏付ける物的証拠も、情報も確認出来ません」

 しかし、大男は食い下がる。

「ダーハン2、事実検証は不可能だ。ターゲットは怪物殺しのプロなのだから。程度が低い証拠なら、隠蔽もしくは、消すことも容易いだろう」

「そのような能力も認められません。ターゲットは知識に欠ける部分があります。また、思考能力も低い」

「それも偽りだろう」

「証拠がありません」

「だが、動きは確かにある。この狙撃のことを知らないのであれば、あのように自然に見せた高速移動、ならびに、難解な選択ルートは通らない」

「・・・・・・」

「あの電車の飛び越えは見事だった。体力的難がある第二ターゲットを、角度と威力を十分に考慮して蹴りを放ち、完璧な狙撃の回避を謀りながらも乗じて、目標施設への急行を成功させた。その前にも四発もの弾が全て外れた。俺とて百発百中の実力がある。しかし、みすみす外してしまった。これは露呈していると考えるべきだ」

「・・・・・・」

 少年もそれは考えた。しかしそれは不可能なことだし、大体知っていても、ターゲットには思考力がないに等しい。と言うことは、綿密な作戦など立てられるわけがない。だが偶然には度が過ぎる・・・。

「・・・ダーハン1。考えがあります」

「何だ」

「ターゲット以外の人物がいましたね」

 先ほどから気になっている人物。あの、謎の行動がひっかかる・・・。

「ああ。“チカ”と呼ばれていた。身体能力はターゲットに劣るものの、人間のそれを遥かに上回っている」

「・・・最初は怪しいとは思いませんでした。ただの隣人とばかり。しかし、彼女はライドです。徹底的にマークして下さい。黒幕は彼女しかありえません」

 それはあまりに低い可能性だった。頼りがたい可能性。捨て置くべきかもしれない。でも、もうこれしかない。

 大男は困惑した様子もなく、了解した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ