悲しい現実
次の日の朝、私は学校を休みヒロさんの実家の酒屋さんに向かった。
同じ町内なのでそう遠くはなかった。公園と駄菓子屋さんの前の通りを15分ぐらい
歩き、交通指導員の置物が置いてある交差点を右に曲がると、そこには小さなお店が見えてきた。
私は、お店のドアの前で小さく深呼吸した。
不安はいっぱいあった。あのメールが本当だったらどうしようとか、お前なんかいらないって
言われたらどうしようとか、考えるとマイナスなことばかりが脳裏をよぎる。
「きっと大丈夫!!」
そう自分に言い聞かせ、ドアを開けた。
『ガラガラガラ』
「ごめんくださぁ〜い」
そういうと、店の奥から中年の女の人が出てきた。
「いらっしゃい」
私はゴクッと息をのみ小さな声で言った。
「あの〜こちらにヒロさんはご在宅でしょうか?」
「どちら様かしらっ?ヒロなら昨日から帰ってないわよ。」
「あっ!あの申し遅れました。私、町内の秋祭りの時にお世話になった佐倉奈央子と申します」
お辞儀をすると、女の人はニコリと笑い
「どうもご丁寧に。あのドラ息子どこ行ったんだか!!フラフラして!一回お灸を
すえてやんないと!!」
その女の人はヒロさんのお母さんだった。
「あっ!あの何時頃もどられるかわかりますか?」
「さぁ〜何しろあの子は親にあんまり連絡よこさないからわかんないねぇ〜。
伝言あるなら伝えとくよ?」
「すいません。たいした用じゃないので失礼しますっ。」
一礼して私はお店を飛び出した。
50mほど走って近くにあったベンチに座りどうしようか考えた。
仕事場に行こうとしたがどこにあるのかわからないからヒロさんが実家に帰ってくると
思いヒロさんの家の駐車場で待つ事にした。
1時間・・・2時間・・・3時間・・・。
時間は刻々と過ぎてゆく。そしてとうとう夜になってしまった。朝から出かけたので
あまり厚い格好をしていなかったために身体はどんどん冷えていった。
それでもヒロさんのことを思うと家には帰れなかった。ただひたすら待った。
すると夜の11時過ぎ、遠くの方から一台の車がやってきた。見覚えのある車だった。
ヒロさんだった。駐車場の線どうりにきれいに車を止めると車からおりて鍵を閉めると
立ち止まり煙草をすいはじめた。
私は駐車場の隅から出てヒロさんに声をかけた。
「ヒロさんっ!!」
バッと後ろを向き、私をみて一瞬驚いた顔をしたが今まで見たことのない冷たい顔をして
私の前まで寄ってきた。
煙草を吸って空に煙をスゥ〜っとはくと口をひらいた。
「何でここにいるの?メール送ったんだけど」
「うっ嘘だよね!?冗談だよね??」
「冗談なんかじゃねぇ〜よ!!もうお前の事キライなんだよ!!うぜぇ〜し
お前とのセックス気持ち良くもなんともなかったし!!もう用済みなんだよ!!」
信じられなかった。前にいる人は誰??ヒロさんはあんなこといわないょ。
目の前が真っ暗になった。どうして??どうして??
私はその場に崩れ落ちた。全身から力が抜けていく気がした。
「ごめんね。あたしが悪いんだよね??ごめ・・・・ん・・・ね・・・・。」
目から涙があふれてきた。
するとヒロさんが両手でガバッと抱きしめた。
「馬鹿野郎っ!!何でだよ!!何でそうなるんだよ!!悪いのは全部俺じゃねぇ〜か
お前はちっとも悪くねぇ〜んだよ!!俺のことキライになれよ!!何言ってんだよ!!って俺の
こと殴れよ!!!!こんなに身体が冷たくなるまで俺なんかのために待ってたのかよ。」
ヒロさんの目からも涙がでていた。
私はコリと笑い
「へへっ。無理だよ。だってヒロさんのこと大好きだもん。キライになんて
なれるわけないじゃんっ♪」
ヒロさんは少し照れ笑いをして
「馬鹿っ」
と囁いた。私をおんぶして近くのベンチまで運んでくれると自分の着ていたジャケットを
私の背中にかぶせてくれた。そして私の横にヒロさんが腰をかけた。
「お前には本当のことを言うよ。ごめんな」
「うんっ。」
「昨日、奈央子と別れたあと仕事に行ったら携帯に電話がなった。彼女からで、電話に出ると」
「あっ!!もしもし?ヒロ!!ビックリするニュースがあるの!!今日仕事終わったら家に
寄ってね。」
「ちょうど良かった。俺もお前に大事な話があるんだ。」
「そっ!?わかった。じゃあ待ってるから。」
「で、仕事が終わったからアイツの家に寄ったんだ。」
「ヒロっ♪お帰りっ!!お腹すいてる??ご飯作ってあるよ」
「いらないっ。それで話って何?」
「ふふふっ♪お腹にねっ。ヒロと私の赤ちゃんがいるの♪」
私の頭に、赤ちゃんと言う言葉がこだました。
「えっ!!嘘だろ」
「嘘じゃないわよ!!どう??ヒロ嬉しいでしょ??」
「あっ!!あー。」
『ドカッ』
突然ヒロさんがベンチからおりて私に土下座をした
「ごめんっ!!ホンとにごめん!!もう俺のこと殴っても蹴ってもいいから!!
アイツには赤ちゃんがいて、俺はおろせなんて言うことは出来ない。アイツを
独りにさせたくないんだ。アイツ昔一度流産してるから今度こそ産まないと!!・・・その・・・。」
「やめて??もう顔あげて??」
私はしゃがんでヒロさんを抱き上げようとした。
「ホンとにごめん!!」
「いいんです。わかりましたから。」
頑張って頑張って、言ってみてけどダメだった。涙が止まらなかった。
やっぱり悲しかった。変に大人ぶって虚勢ををはって、もういいんです。って
カッコ良く言いたかったけど自分に嘘はつけなかった。




