証言
君は今死のうとしている。あと一歩、もうあと数センチ足を動かせば、君は掃除機に吸い込まれるゴミくずのように、排水口に吸い込まれる髪の毛のように、墜ちていくことになる。そうすれば、もう終わりだ。ただ、その前にいろいろ話したいことがある。いいかな?
「……まず、君は誰なんだ。どうしてそんなことを聞く必要性がある?」
質問しているのは、僕の方だよ。それに、その答は、この茶番劇のエンドロールで、分かるようになっている。ここまで、散々君に意地悪してきた神様も、最期の最期くらいは、粋な計らいをしてくれるらしいね。
まず、一の質問だ。何故君は死んだ?
「……何となく孤独だったから」
孤独? しかし、君には友達がいた。まぁ、みんなで一緒に呑んで騒いでっていうタイプの友人ではないけどね。教室の角に固まって、細々と本を読んでいるタイプの、そんな友人だ。でも、そんな悪いことではないだろう?
君が求めていることが何だか、僕には分からないが、呑んで馬鹿騒ぎするだけが、友人ではないはずだ。違うかい?
「君は一体何をしたいんだ!? 僕の自殺を止めたいのか? 」
いや、そんなことはないさ。ただただ、興味があっただけなんだ。君の気分を害してしまったのなら、許してくれ。
「……夢見ていた生活とは、全く違ったからなんだ」
夢見ていた生活?それは一体どんな生活?
「僕は、高校時代は友人がたくさんいたんだ。教室で馬鹿みたいに騒いで、遊んで……。大学でも、そんな生活が続くと思っていた。でも、ぜんぜん違ったんだ。
もう半年以上経った今でも、授業では一人ぼっち。入ったサークルでも、いざこざがあって辞めて。新しく入ったサークルでも上手く行かずに……」
なるほど。でも、また違う理由があるんだろう? わざわざ無駄な労力を使って、死のうとしているんだろう?
「……簡単に言えば、軽い嫉妬さ。
みんな同じスタート地点に立って、一斉にスタートしたはずなのに。僕が一人で座っている席の隣では、弾んだ声で話している集団がいる。容姿端麗で、人に囲まれている奴もいれば、醜くて、人に疎まれる奴もいる。そんな現実に、うんざりしたんだ」
でも、君はそれをわかっていたはずだ。この世の中なんて、所詮そんなものだっていうことを。
今この瞬間にも、地球のどこかでは、ライオンに無惨に肢体を引きちぎられた動物がいる。それが世の中の摂理だろう? 弱いものは殺され。強いものはその繁栄と栄光を高らかに歌い狂う。
ごくごく当たり前のことだ。
弱者愛護を謳う我々人間だって、所詮はその野獣と同じさ。弱者を引きちぎって、その死体の上で高らかに綺麗な文句を歌っているのさ。
神様は、それをみて嘲笑っている。今、君をみて、神様は腹を抱えて笑っているだろうね。いい茶番劇だ、てね。
おっと。僕の方が長々と語ってしまったね。時間をとらせてしまって、すまなかった。
「……最期に教えてくれないか。君は、誰なんだ? 」
僕かい?僕は……僕は君自身だよ。
今まで、一度もゆっくり話したことがなかったからね。いい機会だと思ったのさ。
さあ。時間だ。願わくば、僕の次の人生が、より良いものであることを、心から祈っているよ。




