A.M. 7:05~
「やっぱり先生って朝早いのかしら…」
一行が大堂につくと、生徒が数人、教師は全員席について朝食を食べていた。
「とりあえず、お盆を運ぶわね。」
由愛が人差し指を動かすと、人数分のお盆が運ばれてきた。
この学園の食事は、セルフサービス…つまりは、バイキングである。
数々の有名なシェフがここで働いているので、朝昼夜ともに、最高の食事がいただける。
「おぉ、さすがです!」
「由愛姉さまありがとー♪」
「…私これでもBクラスなんだけどね。」
「あっは、俺Cだし☆」
苦笑を浮かべる由愛に、苦笑を浮かべさせる悠里。それにさらに新たな追い討ちが。
「ボクD。」
ドヤ顔で言う寅央。
「…ここにAがいたら全部そろうよな!」
絶妙なフォローを悠里が入れると、要はそそくさとその場を離れた。
「…あぁ、そっか。」
「何がだ?」
「要にぃ、万年Aクラスだったのよ。」
「はぁぁあ!!??」
自らの兄のクセに、知らないのは何事か。
「まぁ、私たち小学校のころからここにいるからね。なのに私はまだBクラスだなんて…屈辱的だわ。」
「俺小学校のころからずっとCだぞ!?」
「小学校の時からいるの!?由愛サン、すげぇ…悠里、由愛サンを見習え!」
そういうと、悠里は少しむすっとした顔になる。
「俺はテキトーな技がつかえりゃいいの!大概の炎魔法や氷魔法はCクラスで習えるし。」
「そりゃあ、Bクラスはもっと専門的になるわよ?」
「…Aはそれよりさらに専門的だからな…時を操ったり、大気を動かしたり…地震を起こす、はBだったかな…」
話についていけず、きょとんと首をかしげる寅央と悠里。
「あ、でも運動ならだれにも負けない自信ある!」
運動委員長は自信満々そうに、Vサインを出す。
「そりゃあ寅央は運動委員長だもんな。」
「そうよねぇ。運動は…まぁ、私水泳嫌い。」
「俺はとりあえず動くのだるい!」
「自信満々に言うな…」
要はため息をつくと、とっとと料理が置いてあるテーブルに向かった。
「ま、とにかく、ボク達も朝食食べよ!」
「そーだな!」
残りもそれぞれ料理が置いてあるテーブルに向かうと、そこには色とりどり、数々の料理が並んでいた。
「パフェってあるかな?」
「あ、朝からパフェ食べるの?」
「あるんじゃね?俺はケーキ取ってこよー!」
「お菓子屋さんのクセに店以外のケーキを食べるだなんて…」
ちなみに、由愛の朝食は常に和食である。
「一緒にとって来よー、悠里!」
「ん、おう!」
そういうと、悠里は寅央と一緒に菓子系が置いてあるほうへ向かう。
「ふぅ…御馳走様!」
「ごちそーさん♪」
「…馳走。」
三人が同時に手を合わせると、寅央は慌ててパフェを口に突っ込む。
「ま、待ってまだ食べ終わってない!」
「へーへー、待っててやるからとっとと食え」
悠里はそのまま、立ち上がりかけた腰をまた椅子に落ち着ける。
「じゃあ悠里に寅央、私たち先に行くわね」
「…課題を部屋に忘れてきた…」
「あ、ボクもだ。」
スプーンを咥えたまま、しまった、という顔で寅央はテーブルに突っ伏す。
「お前っておっちょこちょいっつーかなんつーか…取ってきてやるから、部屋の鍵寄越せ」
ため息をつきながら悠里が席を立つと、寅央は頷きかけた首を慌てて横に振る。
「いっ、いいよ!自分でとる!」
「はぁ?なんだそりゃ…ったく、しょうがねぇから部室で待ってっぞ。」
「うん、待ってて。あ、ちょっと待った!」
慌てて悠里を引き留める寅央。
なんだ?と悠里が振り返ると、寅央は満面の笑みで皿に残った野菜を指さした。
「これあげる。」
悠里はにこ、とやさしく微笑んで口を開く。
「全部食えコノヤロウ。」
「無理。ピーマン嫌い。レタス嫌い。きゅうり嫌い。かぼちゃ嫌い。トマト好き。」
「なんでトマト!?…ったく。」
悠里は今一度ため息をつくと、もう一度微笑み、かわいらしく首を傾げながら手招きする。
「寅央…おいで?」
「ん、何ー?」
男の娘が大好きな寅央は、てくてくと悠里のほうに近づく。
そして、悠里は笑顔のまま野菜を寅央の口に突っ込んだ。
「はい、あーん☆」
「んぐっ!?に、苦いっ…!」
「吐き出しちゃだめだぜぇ?ちゃんと飲み込め。」
にこにこと微笑みながら悪魔…いやむしろ背後に般若の面が見える気がします悠里君。
「うぅ…」
寅央は涙目になりながらも、何とか野菜を飲み込む。
「はいっ、よくできました。」
撫で撫で、と寅央をなでると、寅央は悠里を恨めしそうににらむ。
「子ども扱いするな!…もう、課題取ってくる!」
そのままててて、と部屋に向かう寅央とポケットに手を突っ込んだまま歩き出す悠里。
さぁ、そろそろ朝の部活動の時間です。