第八話『半年』
「霊人君!」
「どうしたんだ?仁科サン。そんな大声を出しタラ耳に響くダローが」
「そうだな。お前ともあろう者が珍しい」
霊人の後ろから現れたのは、背の高い、長い赤髪の男、九龍院颯痲。
「珍しいのはそっちだろ。引きこもりの霊人が外に出てきてるし、更に言うとお前等が二人一緒に居るなんてよ」
「コノ赤髪バカが勝手にオレの家に来やがったンだよ」
「そんな事はどうでも良いんですよ……」
ノアと霊人が、仁科の声を聞いてビクッと肩を震わせる。
颯痲は相変わらずの無表情。
「九龍院さん、彼……閃牙君を治して頂けますか?」
「それは……」
「本部長の命令だと思って下さい」
颯痲は仕方ない、という風に手から青色の炎を出す。
そして、それを倒れている閃牙に飛ばし、閃牙を燃やした。
これを初めて見た者なら、確実に止めを刺した、と思うだろう。
しかし、炎が消えた時、閃牙の傷は殆ど治っていた。
「ありがとうございます。さて、霊人君、君は何故彼に……というより私達に攻撃をしたのですか?」
「暇潰―――――」
全て言い終わる前に、霊人は地面に顔面から叩きつけられた。
仁科が一瞬で接近して脳天にチョップを喰らわせたのだ。
「今回のお仕置きはこの位にしておきます」
「ヒヒッ、何がこの位ダよ」
いつのまにか霊人はノアの真横に移動していた。
霊人の傷どころか、床に入った罅すら消えている。
「ナァ、もう帰ロウぜ。アノ青髪は仁科サンに任セルよ」
「ふむ、それは良いのですが魔族達はどうしました?」
「それならオレが全て燃やした」
颯痲が言う。
それを聞いた仁科は、今度こそ解散にした。
三人は部屋を出て行った後、仁科が振り返って閃牙に目を向ける。
「さて、彼を本部長の下へ連れて行かないといけませんね……」
翌日。
昨日の事件の後の事は、語るまでもない事だ。
あの後、三人でノアの家に向かっていたのだが、途中で颯痲が何処かへ行ってしまったのだ。
結局ノアと霊人の二人だけでノアの家に行く事になったのだった。
そして、晩御飯を食べるだけ食べて霊人は帰った。
これで終わり。
なので、翌日。
欧領高校1年B組。
「ねぇ、ノア君、何で昨日早退したの?」
「腹痛で眼科行ってた」
「それ医者困るよね!?」
「あぁ、間違った。頭痛で眼科行ってたんだ」
「大事な所変わってないけど!?」
「お前等何の話してんだよ……」
「仲良いよねー」
ノア、修也、竜樹、時雨の屋上での会話。
今は昼休みで、決してサボっているわけではない。
その時、バンッ、と大きな音を立てて扉が開け放たれる。
「……何だ?」
「節操のねぇ開け方だな」
「誰が節操がねぇって?」
そう言って屋上に入ってきた(出てきた?)のは閃牙だった。
制服を着崩している上に、釣り目が相まって、不良に見えてしまう。
いや、実際に不良に近いのだが。
「お前が節操がねぇんだよ。えーっと、ひゃくめおに君だっけ」
「それで百目鬼って読むんだよ。つーか、わざと間違えたろ」
「わざとな訳ねーだろ。閃牙君」
「ルビ振ってねぇから読者に伝わらねぇけど、お前今"せんきば"って呼んだろ」
「聞き間違いだ。タツキ君」
「それ完全に俺だろ!つーかタツキじゃねぇよ!」
「じゃあタヌキ君?」
「リュウキだ!この前から思ってたけど完全にわざとだよな!」
「アンタ等百目鬼君放っといて何してんのよ……」
時雨が呆れて言う。
閃牙はというと、普段しないようなジト目でノアを睨んでいる。
「何だよ気持ち悪ぃ。そんな見つめるな」
「睨んでんだ」
「同じようなもんだろーが」
「違ぇよ!」
「いつの間にそんな仲悪くなったの……?」
完全にノアがボケに回ってしまっている。
別に良いのだが。
「まぁ、良い。お前と口げんかする為に来たわけじゃねぇ」
「じゃあ、何の用だよ、ひゃくめおに」
「……実はな」
訂正するのはやめたようだ。
「オレも『D-JOKER』に入る事になった」
「ちょっ、おまっ、バカ!」
「あぁ?」
今この状況でそんな事を言ってしまうと……。
「『D-JOKER』って何?」
こうなってしまうのだ。
時雨は『D-JOKER』を知らない。
「何だコイツ、知らねぇのか」
「おいっ、お前っ」
「『D-JOKER』っつうのはな―――――」
「あ、悪からこの街の平和を守る、正義の味方だ!」
竜樹が閃牙を遮るように言う。
実際遮っているが。
『D-JOKER』の事は公にしてはならない。
「そうだよな!」
そう言って二人に同意を求める。
勿論ノアは素早く頷く。
しかし、閃牙は少し考える。
「……まぁ、間違っちゃいねぇ……か?」
閃牙も同意する。
とりあえず、閃牙がバカで助かった。
「ふぅん……まぁ良いわ」
時雨は苦笑して言う。
その後、竜樹が時雨と話している間に、ノアは閃牙の肩に腕を回し、後ろを向く。
「バカヤロー、『D-JOKER』の事を一般人に言うな」
「あ?ダメなのか?」
「そうだよ!そう言われたろ!」
「いや、全然」
「あのバカ女!」
ノアの頭の中には、ごめんごめんと笑いながら謝る佳弥のイメージが鮮明に出来ている。
「わーった。誰にも言わねぇよ。ただな……」
閃牙はノアを突き離す。
「お前はいつか殺す。ちゃんと稲瀬さんからも許可を貰ってる」
(何で部下を殺させる許可出してんの!?)
「半年後だ」
「半年?」
「本部に来た時。お前を殺してやる」
それだけ言うと閃牙は帰って行った。
そう、最初から本部に入れるわけではないのだ。
地方の支部で一年間魔族退治を続け、生きていた者が本部へと来られる権利を得るのだ。
その一年の間に辛くて辞めてしまう、もしくは殉職してしまう者が多い。
しかし、閃牙ははっきりと言った。
半年、と。
「……どういう事だ?」
少し考えてみたが、面倒になったのですぐにやめた。
「それにしても、まだ俺が仇だと思ってんのかよ……」
ノアは面倒そうに頭を掻いて、また会話の輪の中に入った。
とりあえず、半年の間は平和……なのかもしれない。
(竜樹)
「更新早いな……」
(雪龍)
「そうだね。二日連続投稿はしないって言ったのにやっちゃった」
(竜樹)
「嘘つきは絶望の始まりって言うぞ」
(雪龍)
「泥棒だよ!絶望の始まりって怖いわ!!」
(竜樹)
「こんな泥棒作者だが、これからもよろしく」
(雪龍)
「してないからな!?」
(竜樹)
「そう言えば、既に次話が出来てるらしいな」
(雪龍)
「え?うん。ていうか、次の話ができてから投稿するから、毎回次話は出来てるよ」
(竜樹)
「しかもそれこの小説だけだろ?何でだ?」
(雪龍)
「タイトルコールをさせるためさ!」
(竜樹)
「次回、第九話『要するに』。次回もお楽しみに」