第六話『肉を斬らせず骨を断つ』
とある廃ビル。
ノアは言われた通り一人でそこに来ていた。
まぁ、言われなくても一人で来ただろうが。
「ったく、何だってん―――――っ!!」
ノアの視界が歪む。
最初は罠だと思い、身構えたがすぐに視界は元に戻った。
周りを見渡す。
先程まで廃ビルにいたのだが、いつの間にか大きな真っ黒い部屋にいた。
「どこだ?ここは」
部屋には壁、床、天井と窓しかなく、窓から光が差し込んでいる為、なんとか部屋を見渡せる。
基本的には暗い。
「まさか、これは……」
「お前の思っている通りだぜ」
声のする方を見ると閃牙が一人立っていた。
手には閃牙の背丈ほどある大剣が握られている。
「領域……いや、空間を作り出したのか」
「これで一対一で闘えるぜ」
「……一つ聞いて良いか?」
ノアは閃牙を指差して尋ねた。
「何故俺と闘いたいんだ?」
ここは欧領高校の体育館。
その中心辺りに竜樹は立っていた。
「後20分か……それまでにいくらか数を減らしたいところだな」
竜樹は気配を読む事が出来る。(正確には風を操っているのだが)
と言ってもここは学校なので人が多過ぎる為、識別するのには時間がかかる。
「どれだけ減らせるか……てか出てこいよ」
何もない所から突然仁科が現れる。
「隠れても君に対しては無駄ですね」
「そう思うなら止めろよ。いい加減気持ち悪いんだよ」
仁科はこんな事を言われても平然と笑っている。
「どうします?他のメンバー、例えばそうですね……嵐城さんでも呼びます?」
「忙しくて来れねぇだろ」
「では霊人君はどうでしょう?」
「俺アイツ嫌いなんだよ。それに滅多な事じゃ出てこねぇだろうし」
『D-JOKER』の半分以上のメンバーは仕事の時しか出てこない。
他人の手助けなどもっての外だ。
……というか仕事の時も出てこない場合がある。
「仕方ないですねぇ……。一人で頑張ってください」
「おい!お前は何もしねぇのかよ!」
「今月のノルマも達成してますし、私は雑魚とは戦いたくないんですよね」
「ちょっとくらい良いだろ」
「私は傍観に徹する事にします」
「おいおい!」
そう言うと仁科は体育館を後にした。
竜樹も仁科を口で言い負かせる事が出来ないのは知っているので、これ以上は何も言わなかった。
「……まぁ良いか。俺だけでも充分だろ」
「オレが何故お前と闘いたいか?お前がオレの兄貴を殺したからだ」
「俺がお前の兄貴を殺した?」(まさか……)
ノアは過去を思い出す。
人を殺したと言えばあの時しかない。
八年前の、あの時しか。
「それはいつだ?」
「あ?何言ってんだ。二年前だろうが」
「二年前……?」
二年前にノアは人を殺してなどいない。
因みに、その時には既に『D-JOKER』の一員だった。
「多分それ別人だぞ?」
「んな訳ねぇだろ。オレは覚えてる。お前の使う闇を」
閃牙が大剣を構える。
それに対してノアは手をポケットに入れたまま。
「覚悟しろよ。お前は生かして帰さねぇ…!!」
「はぁ……まぁ良いや。言っとくが正々堂々とか考えんなよ?」
「あぁ?」
「俺は力を使うつもりはねぇからな」
「……じゃあお前は何しに来たんだ?」
「俺がここに来た理由?そんなの決まってんだろ」
ノアはポケットから手を出し後ろを指差す。
「そこらへんにウジャウジャいる魔族退治だ」
周りには魔族達が大量に隠れている。
隠れているのだが、ノアにはバレバレだった。
「……オレなんて眼中にねえってか?」
「はぁ?自惚れんな。眼中に入ってると思ってたのか?」
ノアはこの闘いで、閃牙に対して力を使う気はない。
ある約束と掟があるから。
閃牙も自分から攻撃する気はない。
「早く来ねぇと魔族共全員地獄に送っちまうぜ?」
「ッ……上等だ」
閃牙はノアに向かって駆け出す。
そして大剣をノアに振り下ろす。
しかしノアは簡単に避ける。
「おいおい、この程度で俺を倒そうと思ってたのか?」
ノアは閃牙の足を狙って蹴りを繰り出す。
それは簡単に避けられる。
そして閃牙の大剣が光る。
「最初は挨拶代わりだ!!」
閃牙は大剣を振り下ろす。
すると斬撃が地を奔る。
「っ!!」
ノアはその斬撃をギリギリの所で躱す。
閃牙は大剣を地面に突き刺す。
「オレの力の名は『肉を斬らせず骨を断つ』。死ぬ前に名前だけでも教えといてやるよ!」
「……親切にどーも」
正直名前だけ聞いてどんな能力か判断するのは無理だ。
ノアは闘いながらも、慎重に、冷静に判断するだろう。
とある建物の、とある部屋。
そこに二人の男が居た。
白髪の男はソファに体を預け、もう一人の長い赤い髪の男は椅子に腰かけている。
「最近歯ごたえのある魔族がイネェよなー」
「だがお前は既にノルマを達成しているじゃないか」
「ヒヒッ、そんな事言ってんじゃネェンだよ。オレは暇を持て余し過ぎて死んじまいそうナンだ」
「何かと闘いたいという事か?」
「ヒヒッ、人をソンナ戦闘狂ミテェに言ってんじゃネェよ」
白髪の男が立ち上がり、歩き出す。
「……どこへ行くんだ?」
「どこに行こうと俺の勝手ダローが。てか今更だけど、何で勝手にオレの部屋に入り込んでンだよ」
「金を全て使い切ってしまったんだ。次の支給金が出るまで泊めてくれ」
「アァ!?一ヶ月50万貰ってどうやったら使いキレンだよ!ツーカ、ソレで何でオレん所に来たんだ!泊めるわけネーだろ!ノアの所行け!アイツの所なら食いもんもウメェし………ん、ソーだ」
白髪の男は赤髪の男の襟を掴んで引き摺って行く。
「おい、オレをどこに連れていく気だ?オレを売って金にしようとしているのか?」
「ンな訳あるか!ノアの所に行くンだよ!」
「冥星の所に?何故だ」
「暇潰しダよ」
「そうか……だが何故オレを連れて行くんだ?」
「逆にテメェは何で人の家に一人で居ようとシテンだよ。ツーカさっさと経って歩け!」
二人を見ると、明らかに赤髪の男の方が大きい。
10cm差があるだろう。
自分より10cm程背の高い男を引きずるのは疲れるのだ。
「ったく、九龍院!やっぱテメェは苦手だ!」
「オレは別に冥星も諏佐、お前も苦手ではないのだが」
「テメェの感想は聞いてネェよ!!」
二人の男、諏佐霊人と九龍院颯痲が、戦場へと歩き出した。
(ノア)
「皆久し振り、冥星ノアだ」
(修也)
「加西修也です」
(竜樹)
「赤間谷竜樹だ」
(ノア)
「いやぁ、予定より9日も早く復活できて良かったな」
(竜樹)
「何で他人事なんだよ」
(修也)
「でも本当に良かったよ!」
(竜樹)
「いやいや、10月から放っとかれたんだぞ?何が良かったんだよ」
(ノア)
「それについては同感だ。作者とよーく話し合わねぇとな」
(修也)
「そう言えば作者は?」
(ノア)
「ん?そこにいるだろ」
(雪龍)
「ンー!ンーッ!!」
(修也)
(何で縛られてるの!?)
(竜樹)
「さぁ、ゆっくりじっくり話をしようか……」
(修也)
「え、えーっと……」
(修也)
「次回は第七話『人間ではない者達』です。次回もお楽しみに」