第三話『空を裂く断末魔』
「何でお前来たんだよ」
「来たんじゃなくてたまたま通りすがっただけだよ」
ノアは溜め息をつく。
今日は日曜日で、ノアは佳弥に頼まれ魔族の征伐に向かっていた。
その行き先でたまたま修也と出会ってしまった。
修也も本当に通りすがっただけだ。
「ところでこんな所で何してるの?」
「俺がお前に聞きてぇよ。俺は魔族を征伐しに来ただけだ」
「僕は母さんに頼まれて知り合いにこれを渡しに行くんだ」
そう言って紙袋を見せる。
中身は分からないがそれなりに重たそうだ。
「ふーん、言っとくけどここいにいる奴を倒さねぇと俺達出れねぇから」
「えっ!?」
「もうここは魔族の領域だ。だからここには魔族が狙った奴か、俺達力を持つ者達じゃねぇと通れねぇんだ」
魔族の領域というのは魔族が作る空間の事だ。
そこに人間を入れて、出れないようにし、襲うのだ。
しかし風景は全く変わらないので領域に入った事に気付けないのだ。
「まぁ、着いて来い。ここにいても仕方ねぇだろ」
「う、うん」(一人の時に襲われたらひとたまりもないもんなぁ…)
二人は町を歩く。
町と言っても人一人いない。
「ったく、どこいんだ?」
「もしかしたらいないって言う事はないの…?」
「ああ、もし魔族が離れたら領域は消えるんだ。だから近くにいる筈―――――」
ノアは何かに気付いて振り返る。
そこには少し年配で執事服を着ている男性がいた。
「人っ!?もしかして魔族に狙われて……」
「すみません、ここはどこですかな。道に迷ってしまいまして」
「えっとここは……」
男性に近付こうとする修也をノアが止める。
修也が驚いてノアを見ると、ノアの目はじっと男性を見ていた。
「どうしたの?ノア君」
「お前は下がれ……」
「え?どういう―――――」
「良いから下がってろ!!」
そう言われると修也はノアに引っ張られて前に倒れてしまう。
倒れたのと同時にザシュッ、と嫌な音が聞こえ、赤い液体が自分に掛かった。
「―――――っ!!ノア君!!」
「クソッ…!」
修也が見上げると、ノアの脇腹から結構な量の血が出ていた。
よく見ると男性の爪は鋭く、ノアの血で濡れている。
「惜しい。もう少しで腹を貫けたのに」
「何、で……」
「コイツは人の皮を被った魔族だ」
そう言ってノアは右手に闇を纏わせる。
それを見ると人の皮を捨てた。
体は細長く、髪は逆立っていて牙と爪が鋭い。
「ふむ、あなたはただの人間ではないようですね」
「俺は『D-JOKER』のコードネーム『ノア』。テメェを征伐する為にここに来た」
「聞いた事があります。我々魔族を征伐する力を持つ者がいると」
魔族はにやりと笑って「しかし」と続けた。
「力を手にする為には一度死ななければならない、でしたっけ?」
「え…?」
修也は魔族が何を言っているのか分からなかった。
ノアは生きていて力を持っている。
死んでいる筈などない。
「ノア君?」
「……嫌な事思い出しちまった」
ノアの紅い目が鋭く光る。
魔族は額から嫌な汗をにじませる。
「テメェはさっさと地獄に堕ちろ―――――」
ノアは手を地面に付ける。
すると魔族の周りの地面から五本の闇の針が飛び出す。
「闇葬壊針!!」
闇の針は魔族の両腕、両足、腹を貫き地面に固定させる。
「さて……さっさと堕ちてもらおうか」
ノアがゆっくりと近づく。
魔族は動く事ができず、ただただ消えてしまうという恐怖に身悶える。
「や、やめろ!」
「やめろ?へぇ……口の利き方に気をつけろよ。テメェの命は俺が持ってるも同然なんだぜ?」
魔族だけならず、修也も今のノアに恐怖していた。
(あれがノア君…?)
今のノアは何よりも、暗く、黒く、そして闇に染まっていた。
「面倒だしさっさと消すのも良いが、その前に一つ聞いとかねぇといけねぇ事がある」
ノアは魔族の首を掴む。
そしてこう尋ねた。
「何故"あの事"を知ってるんだ?」
「"あの事"……ああ!そ、それは言えない!何があってもそれは…っ!!」
ノアが何かに気付いて魔族から手を離す。
すると魔族がバラバラに切り裂かれた。
「……危ねぇだろ。もうちょいで腕バラバラだったぞ」
「テメェがちんたらやってるからだ」
「! その声―――――」
修也はその声に聞き覚えがあった。
その人物とは……。
「大体何で修也がこんな所にいんだよ」
「……竜樹…?」
修也の親友、赤間谷竜樹だ。
(竜樹)
「次回は第四話『嫌いなものは』だ。てか、俺の出番これだけ?」