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D-JOKER  作者: カラクリ/あわぞー
深淵の鳥籠編
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第十四話『魂の次』

『深淵の鳥籠編』――開幕――

 電気も付けず、薄暗い部屋に陽気な着信音が響く。

 ソファで眠りこけていた女性、佳弥はその音で目が覚めた。

 佳弥は体を起こし、音の発信源を探す。

 まだ寝足りないのか、目を擦りながら、反対の手で枕にしていた座布団の下に手を入れる。


「………下敷きにしちゃってたのか」


 大きく欠伸をした後、やっと通話ボタンを押した。

 因みに、彼女はスマホは使いたくないらしい。

 理由は落としたら画面がすぐに割れてしまいそうだから、らしい。


「もしもし……」

『お前、寝てたろ』


 携帯電話の向こうから聞こえたのは男の声だ。


「えっと……何の用かな」

『面白い話をイアンから聞いちまってな。お前に伝えとこうかと思ってよ』


 佳弥は興味無さげである。

 こんな話をするくらいならもっと寝たかったのだろう。

 というより、半分寝かけている。


『てかアイツ、こんな話をどっから聞いて来るんだろうな』

「ねぇ、話なら早くしてくれないかな。私忙しかったんだけど」


 嘘である。

 恐らく相手にも嘘だとバレているだろう。


『スマンスマン、ところで、ノアはちゃんとやってるか?』

「ん、今の所自分で抑えれてるよ。てかさ、そんなことより―――」

『じゃあ、泪華は?』


 佳弥の表情が真剣なものに一変する。

 ピリピリとした空気が電話越しに相手に伝わっているかもしれない。


「……まだ、あのままだよ」

『そうか』

「そうかって、アンタさぁ……!」

『落ち着けって。この確認は話をする上で必要なんだよ』


 まだ言いたい事もあったとは思うが、佳弥はそれを堪える。

 何やら重要な話の様だ。

 そして、次の男の言葉を聞いた佳弥は、目を見開いて驚いた。


『アイツが、また泪華を狙ってやがる』











 ここに来るのも何度目だろうか。

 いや、毎週欠かさず通っている為、その気になれば何回かカウントすることも不可能ではないが、面倒だし、それをすることのメリットもないのでしていない。


「………泪華」


 ノアは病室で眠っている少女を見ながら呟く。

 彼は毎週一度、必ずこの病室を訪れる。

 あの時から、ずっと眠り続けているこの少女の、見舞いに来るのだ。


「今週は、本部に新しい奴等が入って来たんだ。騒がしい双子の姉妹でな。名前は霞霰と霙ってんだ。コイツ等の力がまた面白くてさ。『二度笑う道化師ツー・ライズ・ワン・ジャッジ』っつって………」


 そこまで言って、ノアは自嘲気味に苦笑した。

 何も聞こえていない彼女に何を言っても仕方ない。

 何も聞こえていない彼女に嘘を吐いても仕方ない。


「面白い、か。やっぱそんな事考えられねぇわ」


 他人に興味などない。

 否、興味が持てない。

 だが、これは彼に原因がある訳ではない。

 あの時から、彼は他人に興味を持てなくなったのではなく、持つ事をやめてしまったのだ。

 どうせどんな人間でも、自分の前からいなくなるのだから。


「ったく、ここに来るといつも思う。『二度とこんな所には来ない』って」


 しかし、彼は今ここにいる。

 毎週毎週欠かさずに来ている。


「………絶対、お前を元に戻してやるからな」

「そんなコト、キミに出来るんだし?」

「―――っ!」


 いつからそこに居たのだろうか。

 何処から入って来たのだろうか。

 どちらも不明だが、そいつは窓際に居た。


「初めましてね。ボクは深闇みぐらいだし」


 深闇と名乗った者は、男とも女ともとれる容姿をしていた。

 短く切り揃え、所々ハネている黒髪に中性的な顔立ち、お世辞にも高いとは言えない身長。


「何でこんな所に居やがる……!」

「それを最初に訊かれるとは思っていなかったし。ボクがここに居る理由ね?そんなのそこにいる女の子を連れて行く為に決まって―――」


 深闇の言葉はそこで遮られた。

 否、遮らざるを得なかった。

 ノアが右手に闇の爪を纏わせ、深闇に襲いかかった為である。

 だがノアの攻撃は深闇には届かなかった。

 ある声が、彼を引き留めた。


「病院で暴れるな。みっともない」


 背後から聞こえた抑揚のない声。

 忘れる筈がない。忘れられる筈がない。

 振り返らなくとも分かる。


「……よくも、俺の前に来れたな……!!」


 その男は、白かった。

 白髪、異常なまでに白い肌、生気の宿っていない様な白い目、服装もほとんど白だった。

 だが、首から下げている巨大な数珠の様な物だけが黒い。


「あらら、アナタが来るとは予想外だしね……」

「テメェ、そこ動くんじゃねぇぞ……!!」

「命令するな。それに、動けないのはお前達だ」


 確かに、ノアは動けなかった。

 首から下の体中が真っ黒になっており、全身縛られたかのように動かない。

 それは深闇も同様で、額から冷や汗が滲み出ている。


「安心しろ。お前に用はない。用があるのはそっちだ」


 そう言って、ゆっくりと深闇に近付いて行く。

 しかし、こんな状況で深闇はニィッと笑う。


「ボクもこんな所でやられる訳にはいかないしね。今回はここでオサラバだし」

「…………」


 言った直後には、もう消えていた。

 白い男は何も言わず、踵を返した。

 だがノアが黙って見ているだけな訳が無かった。


「待ち、やがっ、れぇぇえええ!!」

「黙れ。病院だと言っただろう」


 咆哮虚しく、彼は地に伏す事となった。

 正確には床だが。

 漆黒の束縛が無くなった瞬間、ノアの全身から血が噴き出したのだ。

 何かによって全身切り刻まれた。


「がっ、ぁ………く、そ………」


 ノアは倒れて尚、腕を伸ばすが、そんなものが届く筈もなく。

 男は何も言わずに立ち去った。











 ―――また、アイツを逃がすのか


 ―――あの男を逃がして良いのか。


 ―――いや……



 ―――逃ガスモノカ


「ノアッ!」


 そこでノアは目を覚ました。

 寝汗が酷い。

 体を起こそうとするが、体中を激痛が走った。

 その様子を心配そうに見ているのは佳弥だ。


「随分とうなされてたけど……大丈夫?」

「………ここは?」

「病院。あの子の病室で血まみれで倒れてたんだってね」


 ノアは何も言わなかった。

 ベッドに寝転がったまま、虚空を見つめている。


「一応言っておくと、あの子は無事だよ。で、君には何が起きたのかな?」

「……何でもねぇ」

「言うと思った。けどね、そんな悠長な事は言ってられないんだよ」

「どういうことだ……?」

「端的に言うと、あの子―――深鳥みとり泪華るいかは、狙われている」


 そして続けて、こう言った。


「魂の次は、命を狙われてる」

「……っ!!」

「ただま、君が焦る必要はない。てか、焦るな」

「っざけんな!これが焦らずにいられるかよ!!」

「大丈夫。逃げた子はあの子が今頃捕えてるから」










 時は少し遡り、とある空き地。

 そこに深闇は逃げ込んでいた。

 いや、正確に言うと、そこに誘導されていた。


「何ダよ。タダのガキじゃネーか」

「っ!誰だし……?」

「アー?誰カって?」


 突きを背にして、塀の上に立っているその少年はニィッと口角を上げる。

 そして、彼は言うのだ。

 いつものように人を馬鹿にしたように。


「教えネーよ、ボケ」


 こうして、諏佐霊人と深闇の闘いの幕は上がった。

ある人物からの依頼。

「『D-JOKER』の総力を持って、深鳥泪華を守り抜け」


「テメェ……さっきの力……」


闇の深さは計り知れず。

明るく照らす光は何処に。


「ボクにはもう、後がないんだし」


そして、立ち向かうのは、光か闇か。

何もかもを支配する不屈の幽鬼。


「ヒヒッ、今度はブッ殺してもイイってお達しダカラな」


「サーテ、想像しろ。自分が死ぬトコロをな」


死の射程距離を持つ紅い悪魔。


「知るか。お前の周りの全部をまとめてぶっ壊してやる」


「まだお前には、仲間がいるんじゃねーのかよ」


闇を纏う冥府の王は、冷酷で、残酷で。


「俺の目的のために、邪魔する奴は全て地獄に堕とす」


「アイツは絶対許さねぇ……!!」



他方でも、闘いは激化する。


「そろそろ『D-JOKER』最強の出番かな」


「困りましたね……。貴方と闘うのは私にはあまり好ましくないのですが」


「わかった。とりあえず、燃やす」


翼を失った鳥は、深淵の鳥籠から再び飛び立てる日は来るのか。



「今度こそ、泪華を守り切ってやる」


『深淵の鳥籠編』――開幕――


(深闇)

「次回第十五話『咲けば百厄の長』だしね。次回もお楽しみだし」

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