第十三話『分身ちゃう』
霙から出てきた霰は両手に一本ずつ、刀を持っていた。
「あれ?もう交代なん?早ない?」
「ちゃうちゃう、魔族出てん。せやから倒さなあかん思うて……」
「ちゅうか、部長見てはるやん。隠しとったんちゃうんか?」
「ウチは別に隠してへんよ」
とまぁ、敵が目の前にいるにも拘らず、二人はよく喋る。
魔族の方もいつ始めて良いのかタイミングを計っている。
しかし、彼女達は喋るのをやめない。
『えぇい!鬱陶しいガキ共がぁ!そんなにお喋りがしたいなら地獄でしなぁ!』
数十本の脚を細かく動かし、霰と霙に接近する。
二人は突然黙って、魔族を睨みつけた。
そして、霰が霙に一本刀を渡し
「「うっさいわ」」
一人一本ずつ、魔族の脚を斬り落とした。
計二本、魔族の脚が宙を舞う。
『ぐぎゃぁぁっ!!』
「せやから」
「うっさいて」
「「言うてるやろ」」
更に一本ずつ、脚を斬りおとす。
それに対して魔族は更なる悲鳴を上げる。
『ガキ共がぁ……!ウザいんだよぉ!』
黒い球体から尾のような者が飛び出す。
先端が尖っている。
それがそのまま霙の方へと向かっていく。
しかし次の瞬間、霙の姿が消え、霙ではなく地面に突き刺さった。
『なぁ!?何処に!?』
「『二度笑う道化師』」
魔族は上半身だけ振り返る。
そこには霞霰がいる。
『こっちかぁぁ!!』
「どっちもや」
『なぁ!?』
先程消えていた筈の霙が、魔族の背後にいた。
前と後ろに、彼女達はいる。
「今度は」
「腕貰ったる」
宣言通り、魔族は両腕を斬り落とされた。
肩から大量に血が噴き出す。
『ぎゃぁぁあああ!ガキがッ!食料の分際でェェッ!!』
血が固まっていき、赤黒い腕となる。
それと同時に姿形が変わっていき、魔族は本性を現した。
三つの黒い球体の体で、一番上には醜い頭、真ん中には四本の腕、一番下は今まで以上に大量の脚が生えている。
『喰ってやる!喰ってやるッ!』
「なんや、エライモンになってもうたで」
「ウチこういうの嫌いやねん。こういうキショいの」
『食料がァァッ!!』
魔族は四本の腕を振り回して二人に突っ込んでいく。
二人はそれぞれ別方向に跳んで避ける。
『小賢しい!』
魔族は霰に標的を絞って特攻する。
そして四本の腕全てで、霰を殴りつけようとする。
しかし、拳が体に触れる前に霰の姿が消えた。
『またかぁ!』
「またかぁってしゃーないやん。これがウチの……ウチ等の力や」
『力ぁ?ただの分身だろぉ?』
その言葉に反応して、霙の方がピクッと跳ねる。
「……分身舐めとったらいてまうぞボケェ!」
「せやゴラァ!」
霙の体から霰も出て来て言う。
「分身ごっつ使い勝手エエねん!」
「ちゅうかウチ等のは分身ちゃうわアホンダラァ!」
可愛らしい顔して口はかなり汚い双子。
それ程分身をバカにされたのが気に障ったのだろうか。
それにしてもこのギャップには驚かざるを得ない。
『五月蝿い食料だねぇ!そんなの何だって良いんだよぉ!』
「「何だって良い……?」」
二人同時に俯く。
「アカン……頭来た……」
「本気で潰したろうや……」
瞬間、霰の体から強烈な光が放たれる。
そしてその光は霙に刀を渡した後、体に入っていった。
「二人で一つ……一人で二つ……♪」
霙は小さい声で呟くように口ずさむ。
『何だぁい!?』
「一つ分でも二人で二倍……♪」
歌い終えると、霙は刀を後ろに引いた。
『お前等……何者だぁ?』
「姉妹や」
『はぁ!?』
「ほんで、これで終いや」
そう言うと、魔族に右手に持っていた刀を投げつけた。
もちろん魔族はそれを避ける。
しかし、背後から誰かが魔族を斬り付けた。
『お前……また分身かぁ!』
後ろを振り返ると、刀を持っている霰の姿が。
先程投げられた刀を取って、そのまま斬り付けたのだろう。
「せやから分身やないて言うてるやろ」
一瞬後ろに気を取られていた隙に霙が前方に接近していた。
「「気抜き過ぎとちゃう?」」
前も後ろも、刀を振りかぶっている少女。
完全に気が抜けている。
いや、正確には、どちらにも気を取られ、警戒が中途半端になってしまった。
闘いにおいて、それは命取りにしかならない。
「「ほな、さいなら」」
二人の道化は、笑っていた。
そして、前と後ろから魔族首を撥ねられ、地に伏した。
「なぁ霙」
「何や?」
「さっきのダジャレ……2点や」
「低ない!?」
翌日。
大阪駅の新幹線乗り場。
細川は一行の、霙達の見送りに来ていた。
「東京でもしっかりやるんだぞ」
「大丈夫やって。ナンパされても返り討ちにしたる」
「ははは、ノア君、霊人君、未来さん、竜樹君、それに修也君。霰と霙をよろしく頼むよ」
「バカネコ、頼まれとけ」
「にゃんって違う!要するにネコじゃない!」
「まァ大丈夫だ。イザとなったら赤間谷が見を挺して守ルから」
「何で俺がっ!」
等と言いながら、時間が来た。
「んじゃ、そろそろ行くぞ」
一行が乗った新幹線は、午後2時32分。
東京駅へと出発した。
「……最後に良い物を見せてもらったよ。霰、それに霙」
オマケ話。
新幹線の中にて。
「で、結局何なんだよ、昨日のは」
「そんなにウチ等の力に興味あるんか。厭らしい。東京モンはホンマ厭らしいわ」
「テメェ……東京の人達及び俺に謝れ、三秒以内に!」
「早速仲良くなってんのな」
「これのどこを見たらそう言う結論が出たんだ?」
閑話休題。
話は元に戻る。
「ウチ等の力は『二度笑う道化師』。まぁ、力っちゅう程やあらへんけども」
『二度笑う道化師』。
一つの体を、二つの精神が共有する。
つまり、霙は霰であって、霰は霙である。
とは言っても、分離することは可能だ(一日三十分限りで)。
「へぇ、なんか……姉妹じゃねぇとやってられなさそうな能力だな」
「……ホンマなら、ウチ等かて、こんな体になる位ならあの時………」
「ん?」
「何でもないわアホ!」
「スゲェ理不尽に罵倒された……」
東京に着くまで、後30分。
(風見燈環)
「長らくお待たせしました」
(修也)
「本当にすいません」
(風見燈環)
「今回修也で良かったよ。他のメンバーなら☓☓☓されちゃうからね」
(修也)
「ところで、次回から今作初長編らしいね」
(風見燈環)
「うん、予定では『深淵の鳥籠編』です。無駄に中二っぽいですよね」
(修也)
「次回は第十四話『魂の次』です。次回もお楽しみに」