第十二話『二度笑う道化師』
「部長、連れて来たでー」
『D-JOKER』大阪支部。
霙が部長と呼ぶ人は、ダンディな白髪オールバックの男性だった。
「よく来てくれたね。私が大阪支部の支部長をやらせてもらってる細川だ」
「えーっと、俺は『ノア』、こっちが『ヤぺテ』こと諏佐霊人で、こいつが『イゼベル』ことバカネコだ」
「にゃんって違う!要するにネコじゃない!アタシは凛堂未来!」
「ふむ……君は本名を教えてくれないのかい?」
「いや、だから『ノア』だって」
わざわざ『』を付けるから解り辛いが、彼の名前は冥星ノア。
決して嘘は吐いていない。
「そうか、まぁ良いんだ。それで、君は?」
細川は良く解っていないらしい。
理解する事を諦めて修也の方を向いて尋ねた。
「僕は加西修也です」
細川はじっと修也を見る。
そして笑う。
「彼によく似ているね……」
「え……?」
「いや、何でもないよ」
「………ん?そう言えば赤間谷はどこ行った?」
「やっと気付いタかよ。アイツなら新幹線に置イテ来たぜ」
「えぇっ!?」
「なら良いや」
「良くないよ!?」
とはいうものの、竜樹なら大丈夫だと心の片隅で思ってしまっている。
彼ならどうにかしてここまで来られるだろう。
それが出来なくても、最悪本部に戻るだろう。
「なーなー、ウチ遊びに行きたいんやけど」
「もうちょっと待ってなさい」
霙はしゃーない、と言うと部屋から出て行った。
待てと言われたのに外に行ってしまった。
「すまないね、彼女達は少し子供っぽい所があってね」
「大丈夫だ。うちの部長も似たような感じだ」
その頃、佳弥はくしゃみをしていただろう。
「とりあえず色々見せてもらうが……具体的に俺達は何を見て、何をすればいいんだ?」
「それを私に訊かれても困るんだが……」
「オレから訊きテェ事があンだけど良いか?」
「何だい?」
「アイツ……霞霙と霰の事だ……」
霊人は真剣な表情だ。
その表情を見て、細川は唾を呑み込む。
「……ドッチが姉でドッチが妹ナンだ?」
「それ別にどっちでも良くない!?」
どっちでも良くは無いが、今この状況では別に訊かなくても良い事だろう。
その時、勢いよくドアが放たれ、息を切らした男が入って来た。
「大変です!霞が人を襲いました!」
「何ぃっ!?すぐ行く!」
細川が走って外に飛び出す。
ノア達もそれに続いて外に出た。
大阪支部から出て、少し走った所にある公園。
そこに霙はいた。
「霙っ!」
「ほぇ?隊長やん。どないしたん?」
「どないしたんじゃないだろ!お前何で人を襲ったり……」
「せやかてしゃーないやん。コイツが襲ってきてんから」
「お、襲ってねー……」
ノア達に取って聞き覚えのある声。
それが霙の足元辺りからした。
「……お前何してんの?」
「その言い方は無いだろ……」
霙の足元に倒れているのは赤い髪の少年。
というか赤間谷竜樹だった。
しかもズタポロだった。
「隊長、コイツがウチの事襲ってん」
「だから襲ってねぇ!ちょっと話しかけただけだろ!」
「イケメンが話しかけるっちゅうことはセクハラかナンパや」
「どんな偏見だ!ふざけんなよクソガキ!!」
「あぁ?アンタ何歳や……?」
「16だ、ボケ」
「同い年やないかアホォ!!」
正確に言うとまだ15歳だ。
自分も今年で16歳になるから同い年だと言ったのだろう。
「何でお前大阪にまで来ていたいけな女子にナンパ、あるいはセクハラしてんだ」
「浮かれ過ギだろ」
「要するに最低。女の敵だよ」
「だから違ぇっての!!」
その後、竜樹から聞いた話を纏めてみる。
新幹線はノア達と同じくちゃんと大阪駅で降りていたらしい。
だが、やはり気分が悪いのは変わらなかったらしく、少し休憩していたら置いて行かれてしまったらしい。
地図を渡されておらず、途方に暮れていた所、前もって見せられていた写真と同じ顔の人物、つまり霙がいたので話しかけたらボコボコにされたらしい。
「って、そう言えばお前、もう一人居なかったか?」
竜樹が霙を見ながら言う。
周りの人には何を言っているのか解らないだろう。
いや、勘が良い霊人やノア辺りはそれが双子の片割れである、霰の事だと解っているかも知れない。
「えっと、君達知り合いの様だけど……まさかこの子……」
「『D-JOKER』本部所属、赤間谷竜樹こと『エノク』だ」
「逆だ」
『エノク』こと赤間谷竜樹、これが正解だ。
「そ、そうだったのか。それは尚更悪い事を……霙!お前人を襲ったりして―――――」
「細川サン、何言ってンだ?」
「え……?」
「オレ達は人間ナンテ高尚なモンじゃねーダローが」
「それはどういう……?」
「力を持つ者は人間じゃネー。その辺の虫ケラ以下のゴミなんダよ」
それを聞いて、細川は驚愕した。
自分より年下の、しかも細川から見たらまだまだ子供の霊人が、こんな事を言ったのだ。
いや、例え自分よりも年上だったとしても、驚愕した事に変わりは無いだろう。
「そ、そんな事……」
『今日は美味そうなガキが六匹ぃ……クフフ……』
どこからか響く女の声。
周りに人がいない。
つまり、この声は魔族の物で、ここは領域の中なのだろう。
『こんにちわぁ、素敵な食料』
ノア達の後方、滑り台の上にそれはいた。
長い黒髪の女で、目隠しの様な物をしている。
それだけ見れば風変わりな女の人だが、その女性の足、ひいては下半身。
大きな黒い球体から、数十本もの細長い脚が生えている。
「ま、魔族!?」
「お前、運が無かったな」
『何を言っているのかしらぁ?』
「俺達の正体を知らずに領域に閉じ込めるとはな」
『アンタ達の正体ぃ?そんなの知って何になるってのよぉ』
「何やねん、その喋り方。ごっつウザいんやけど」
霙が一歩前に出る。
「隊長、ウチが闘うから手出さんとってな」
「え!?お前が闘うのか!?」
「アカンの?アカンのやったら無理にとは言わへんけど……」
「いや、良いんだが……お前、人前では闘わなかったじゃないか」
「ウチが闘わんでも皆が倒してまうからやろ」
どうやら理由はそれだけだったらしい。
霙は両手を広げて、言った。
「『二度笑う道化師』」
次の瞬間、霙が二人になった。
否、霞霰が霙の体から現れた。
(霙)
「ウチ登場やな!」
(風見燈環)
「え、前回から登場はしてたじゃん」
(霙)
「しゃーないやん。前回の後書きはネコちゃんに盗られてん」
(未来)
「にゃんって違う。要するにネコじゃない」
(風見燈環)
「あ、また出てきた」
(霙)
「この子出てきたら収集つかんくなってまうやん」
(未来)
「それどういう事!?」
(風見燈環)
「確かにそうだね。ならそうなる前に終わっとこうか」
(霙)
「せやね」
(未来)
「待ってよっ!要するに終わらないでっ!!」
(霙)
「次回第十三話『分身ちゃう』や。次回もよろしゅうな~」