第九話『要するに』
閃牙の一件から早一週間。
あれから閃牙は、学校に来ていない。
クラスでは留学している、ということになっている。
「はぁ、降ってきちゃったなぁ」
雨が降り出したので、勿論修也は傘を差して一人で帰っていた。
朝の天気予報でも降水確率70%と言っていた。
因みに、今日はノアは休みで、竜樹は生徒会、時雨は部活だ。
なので、一人で帰っている。
「皆忙しいんだなぁ……」
その時、道の端っこにしゃがみ込む水色の髪の少女を見つけた。
少女はかなり薄着で、傘を差していない。
今は5月下旬。
流石に雨に濡れると寒いだろう。
「えーっと……どうしたの?」
少女はゆっくりと修也を見上げ、少し顔を確認すると、また俯く。
年は修也と大して変わらないだろう。
「傘、無いんだよね?」
少女は無言で頷く。
「じゃあこれ……貸してあげるから」
「……………」
「あ、気にしないで。もう一つ持ってるから」
そう言うと鞄から折りたたみ傘とタオルを取り出す。
それを開いて、修也はタオルを差し出す。
少女はおどおどしながらタオルを受け取る
「えっと……家まで送ろうか?」
「……………」
少女は無言で、今度は首を横に振る。
「そう?えっと、じゃあ……ね」
このまま立ち去って良いのか考えたが、無理矢理連れて行くのもどうかと思った。
それに、小さい子ならともかく、相手は同い年くらい。
家には一人で帰れると思った。
「またね」
修也は笑顔で言うと、その場を後にした。
修也が角を曲がると同時に少女はゆっくりと立ち上がる。
「……………」
少女は駆け足で何処かに行った。
翌日。
そしてやはり昼休み。
そしてこれもまたやはり屋上。
そして更にこれもまたやはり例の四人。
「あ、そう言えば、昨日ね、帰ってる途中に―――――」
「ナンパされたのか?」
「えっ、逆ナン!?」
「ち、違うよ!」
「ならナンパしたのか」
「ナンパから離れようよ!」
閑話休題。
修也が話を元に戻す。
「昨日変わった子に会ったんだ」
「変わった子?榎並みたいな奴か?」
「私は変わった子なの!?」
「時雨とは全然違うんだけど……うーん、変わった子っていうか……不思議な子?」
「あぁ、電波ちゃん?」
「いや、名前は聞いてないけど……」
「そう言う意味じゃないんだけどな」
またもや話が逸れ出したので閑話休題。
「水色の髪の女の子でね」
「ナンパし―――――」
「冥星、そのネタはもうやめろ」
竜樹から御触れが出た。
ノアもすんなり承諾した。
「雨が降ってたのに蹲ってて……薄着だったし、寒かったのかな」
「もしかしてソイツ、無口だった?」
「無口っていうか、一言も喋らなかったよ」
「それってもしかして―――――」
「アタシのことだよね」
突然会話に入ってきた水色の髪の少女。
短い寸足らずのキャミソールにホットパンツ、薄着だ。
ここまで見れば、確かに風変わりだが、普通の少女。
ただ、フェンスの上に器用にしゃがんで、四人を見下ろしている事を除けば。
「要するにそれってアタシのことなんだよね」
「やっぱお前か、ネコ」
「にゃん、って違う!要するにネコじゃない!」
だが確かに、髪がハネてネコミミのようになっている。
あながちネコでも間違いではないかもしれない。
「ノア君、知り合いなの?」
「ああ、コイツは……」
「アタシは凛堂未来。要するに未来って呼んでね。えっと、それと……」
少女、未来はフェンスを降りて修也の前まで来て、同じ目線になるように正座する。
そしてポケットに入れていたのか、畳まれた綺麗なタオルと傘を後ろから出す。
「あ、あり、ありが、とう……ござ、い、ました……」
頬を赤く染めて、タオルと傘を差し出す。
心なしか、手が震えている。
「あ、うん、どういたしまして」
修也が笑顔で受け取る。
少し手が触れた時、未来が耳まで顔を真っ赤にする。
「わ、わわわ……ひゃーーーーっ!!」
未来は立ち上がってフェンスに向かって走り出す。
「と、飛びたい!要するに鳥になりたいーーーっ!!」
そして、フェンスに手を掛けた未来を修也が抑えた。
「あ、危ないよ!」
「あ、ひゃ、にゅ、しぇ……」
未来はそのまま、修也の腕の中で眠った。
……正確には、色々と耐えきれなくなり気絶した。
「迷惑を掛けました。要するにごめんなさい」
目を覚まして、いくらか冷静さを取り戻した未来の第一声。
ちなみに、竜樹と時雨は教室に戻った。
というよりかは、授業が始まったのだが、二人はサボっているのだ。
いや、ダメだろ、と思われた方、貴方達は正常です。
「アタシの名前は凛堂未来。要するに未来って呼んでください」
「えっと、未来ちゃんはどうやってここに来たの?」
「見えない赤い糸を辿ってきました。要するに勘です!」
「勘で来れたの!?」
「もう面倒だから俺が紹介する」
そう言ってノアが切り出す。
「名前は凛堂未来。もう薄々気づいてるだろうが『D-JOKER』所属。コードネーム『イゼベル』。仇名はネコ」
「にゃん、って違う!要するにネコじゃない!」
違うとは言いつつも、やはり一度は乗るみたいだ。
「何しに来たんだ?」
「修也君に傘とタオル返しに来ただけだよ」
「そうか。なら帰れ」
「帰るのは良いんだけど……泪華ちゃんはどんな感じなの?」
その問いにノアの表情が少し険しくなる。
あまり訊いてはならない事なのではないのだろうか。
「別に。何ら変わりねぇよ」
「……そう。まぁ、それだけだよ」
そう言うと、フェンスに手を掛ける。
「じゃあまたね、修也君。要するにまた会おうね」
軽くフェンスを登って行く。
修也は勿論止めようとしたが、ノアがそれを更に止めた。
「飛びたい。要するに鳥になりたい。『解放されし神秘』」
未来が言うと手が、鳥の翼のようになり、飛び立って行った。
「………えぇっ!?」
「やかましい。授業行くぞ」
「え、あ、いや……うん」
二人は何も無かったかのように屋上を後にした。
飛行中の未来。
「あ、そういえば今夜集会があるって伝え忘れたなぁ。要するにまぁ良いか」
数日後、ノアと竜樹が佳弥に怒られたのは言うまでもない。
(未来)
「アタシの登場だよっ!要するにこれからの活躍に期待してね!」
(雪龍)
「未来の力は『解放されし神秘』だよね?」
(未来)
「うん、"&"じゃない所がポイントだね」
(雪龍)
「そこすっごいどーでも良い所だよね」
(未来)
「それとアタシの名前は未来だから。要するに過去と間違えないでね」
(雪龍)
「未来と間違えないでじゃなく!?」
(未来)
「次回、第十話『学校案内』side修也です。要するに次回もお楽しみに~」