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貴方と背中を合わせる理由。(仮)  作者: はつい
第陸縁:深まらない愛は愛じゃない・・・・・・?
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第Ⅸ十Ⅶ話:湯・You・誘。

(可愛イ。)


 自分の顔、表情が緩んでいるのが解っていた静流だが、征樹が背を向けている事をいいことに、それを隠そうとはしない。

無防備に背を向け、自分に身体を預ける征樹が可愛くて仕方がないのだ。


「静流さん?」


「え?あ、はい、頭、一回流すわよ?」


 どんなに征樹が可愛くても、呆け続けてはいけない。

我を取り戻し、本来の目的の為に動く。

桶に張った湯で、征樹の髪を流し、シャンプーで徐にわしゃわしゃと・・・。


(・・・幸せ。)


 あっという間に本来の目的から脱線。

顔がニヤける。

シャンプーが目に入らないように必死に目を閉じている征樹の仕草がたまらない。

ハートはきゅんきゅん状態だ。


「痒い所はありませんか?(なんちゃって♪)」


 完全に浮かれている。

何度も言うが、勿論、自覚はしっかりとある。


「いや、大丈夫・・・。」


「征樹ーッ?」


 幸せはそう長くは続かないというけれど、今回もまた乱入者によって壊された。


「征樹~、またトランプでもしな・・・あれ?」


 浴場の外の部屋から、杏奈の声がする。


(私、部屋の鍵・・・。)


 鍵をかけた記憶がない。

しかし、杏奈が部屋に入って来られた以上、そういう事なのだろう。


「誰もいない?静流さんもいないなんて・・・静流さーん?」


 鍵が開いているのに誰も居ないというのは、当然に不自然だ。

杏奈が部屋を見回したりするのは、無理もない。


「お風呂かな?静流さん?征樹?」


 征樹は皆と浴場に行かず、入浴していないからそういう事も踏まえて杏奈は考える。


「部屋のお風呂?」


「あ、あ、あ、杏奈さん、何かしら?」


 これ以上、不審がられては困る。

第一、覗かれるよりは断然マシだ。

きゅっと征樹の身体を抱え込み、一つに重なるようにして返事をかえす。

頭にシャンプーを泡立てた状態で目を閉じた征樹は、周りの状況を見る事すら不可能で、どうしようもなかった。

賢明だ。

直後、曇ったガラス戸越しに杏奈のシルエットが映る。


「あれ?静流さん?征樹知らないですか?」


 そこにいたのが、征樹ではなく静流だったのが予想外な杏奈だったが、鍵の開いた部屋に人がいた時点で、疑問は晴れたようだった。

どうやら、彼女は脱衣所の衣服には気づかなかったらしい。

だが、シルエットだけとはいえ、杏奈の姿が解るという事は、そのまた逆も有り得るという事だ。

静流はより一層重なるように征樹に密着する。

当の征樹は無言のままだ。


「さぁ、どうかしら。私は知らないわ。何処か館内を回ってるんじゃないかしら。」


 この程度の言い訳が限界だった。

弁護士という職業が自分意はまるで向いていないのではないかと、そう思えるくらいに。

心臓がドキドキと早鐘を打ち、行き場の無い力は征樹に触れる手へ。


「う~ん、何処に行ったのかなぁ。団体行動が苦手なヤツめ~。」


(・・・杏奈に言われたくない。)


 かろうじて、それを突っ込む程度の抵抗はしたかった征樹だったが、声をあげるわけにはいかない。

それに、現在なんとも言えない感触が、彼の背中全体を襲っていて・・・。


「じゃあ、征樹がもし帰ってきたら伝言しといて下さい。トランプ、今度は罰ゲーム無しでやるって。あ、静流さんも上がったら来て下さいねー。」


「えぇ、そうするわ。」


 なんとか返事をして、ガラス戸から消えてゆく影を眺め、それが完全に消えたら、今度は耳をそばだて足音を聞く。

やがてそれすらも聞こえなくなり、扉がカチャンと開閉した音がして、静寂に包まれる。


「行った・・・かしら?」


 呟いた後、ふぅっと息を吐く。

本当に心臓に悪いハプニングだと思った静流だが、そもそも鍵をかけ忘れたのが悪い。


「ごめんえ、征樹く・・・?!」


 目の前にきゅっと口を結び、目も閉じた征樹の可愛らしい顔のドアップ。

背中から覆い被さる自分の身体。

胸は彼の背中に押し付けられ、豊満な胸は卑猥に形を歪んでいた。


「あ、そ、その頭流すわねっ!」


 チラリと視界に入ったその状態を無視して、何事も無かったかのように静流はシャワーのお湯をかける。


「冷たッ?!」 「きゃぁっ、あ、ごめんなさい!」


 冷静さのカケラもそこにはなかった・・・。

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