第Ⅸ十Ⅵ話:ベタな展開をモノに出来るかは自分次第?
一人、少しずつの思い違い。
征樹は乱入者が来ないように鍵をかけたのだが、そこには静流が部屋の鍵を持っているのを失念していた事。
静流は部屋に鍵がかかっていた時点で、征樹が外出していて部屋にいない、内風呂など使う事がないという思い込み。
更に、湯が温泉なので浴場のようにかけ流しだと思っていたという事もあるが、とりあえず静流が身体にタオルを巻いていたのは良かった。
征樹にとっても。
「あ、僕、出ますからっ!」
いつものなら、この固まった状態から復帰して再起動するのは、静流の方が早いのだが、この場合の経験値は既に征樹の方が多かった。
"入浴中に乱入される経験値"というのもどうかと思うのだが。
「い、いいの!」
思わず出た静流の言葉はコレだった。
一体、何がいいのだろうかと征樹は一瞬考える。
「そのままで・・・いいから・・・。」
首を傾げそうな征樹の態度に静流は言葉を補足した。
(いいわよ・・・ね?)
誰でもなく心の中で問いかける静流。
(琴音さんだって一緒に入ったんだから。)
深呼吸を一つ。
「気にしなくていいから。」
(そう言われても・・・。)
チラリと静流を見て・・・。
(どうしろと・・・。)
土台、無理な話だ。
一枚のタオルで隠れているとはいえ、その下の事を想像するなというのが無理で・・・。
そんな征樹を誰が責められるだろうか。
「はぁ・・・。」
そのせいか、結局曖昧な反応になってしまう。
「ね?」
そう言うと、本当に征樹が気にならないとばかりに、彼の浸かる浴槽に背を向け、身体を洗い流す為に座る。
ほんのりと赤くなっている白くて綺麗な肌。
視界にはそれだけ。
(日焼け・・・かな?)
静流の背中をうっすらと彩る輪郭を、ぼんやりと眺める。
肩甲骨から背骨を辿って・・・下へ・・・。
「征樹くん?」 「はいっ?!」
ビクリと身体を震わせ、冷や汗が出て来る。
「ちょうどいいから、征樹くんの頭、洗ってあげるわ。」
「え゛?」
てっきり見咎められるとばかり思っていたところに、更に意外な提案。
「こっちに来なさい。」
同時に、例の本能的には男に拒否権がないというフレーズが・・・。
静流が十分、十二分、優しく征樹に語りかけてきていても、何故だか重圧すら感じにはいられない。
語りかけている側の静流も、内心では心臓が破裂してしまいそうな状態で、何とか必死に平静を装っているに過ぎない。
ただ、自分が多少・・・いや、過分に暴走しているという自覚もある。
(別に、これくらいどうって事・・・そ、それに今時、こんなのは普通よね、そうよね!)
自己暗示をしなければ、恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった。
しかし、それでも・・・。
「早くしないと、私が夏風邪を引いちゃうわ。」
更に力を籠めて征樹を促す。
但し、あまり強く、しつこく言っても、女性としてづおかと考え、この言葉。
これで最後にしようと決意していた。
もし、征樹が拒否したり、遠慮気味な姿勢をするならば、自分はさっさと諦めようと・・・。
「え、と・・・・じゃあ・・・。」
征樹としては渋々、静流としては歓喜。
カタチとしては征樹が折れた状態。
ゆっくりと湯船から上がり、(当然、下に手拭いを巻いた)静流が先程まで身体を流していた位置へと移動する。
「お願い・・・します。」
ぽつりと静流に背を向けたままで呟く征樹を、思わず後ろから抱きしめたくなる。
「任せて。」
心の中ではそう思っていても、あくまでもスマイル。
張り付いたような笑みだったとしても、どうせ背を向けている征樹には解らない。
それは静流にとっては好都合というしかなかった。
冬休み連続更新期間突入!
って、クリスマスに何やってんだろ、ね、この人達w




