第Ⅸ十Ⅲ話:何処かで出逢えたかも知れない人へ。
(まぁ・・・観光地の土産物なんて、大差ないか・・・。)
土産コーナーに並べてあった品物の数々を思い出しながら、征樹は自分の部屋に向かっていた。
脳内では誰にはコレ、はたまたアレと組み合わせを考えている。
(ん?)
視界に猛スピードで走り込んでくる人影。
「奏先輩?」
「え?!」
大袈裟に驚く奏を訝しげに思いながら、征樹は自分が意外と平静に彼女を呼び止められた事に安堵していた。
「あ、あれ?葵くん?」
「奏先輩は、お風呂上り?」
心の中で、うん、大丈夫だと再確認。
反対に奏はというと、絶賛大パニック中なのは言うまでもない。
予期せぬタイミングでの出会い、そして二人きり。
先刻のあんな事がなければ、奏も大喜びする状況に違いなかったのだが・・・。
「ちょうど良かった。少し話をしたいと思って。」
話。
二人の間での話しときたら、例の件しかない。
「話・・・。」
「うん・・・色々、考えたんだけど、いや、そんな考えてないかも。」
何せ、思考整理の大半が他人に手伝ってもらったようなものだ。
征樹は奏を促すとゆっくりと二人で歩き出す。
「やっぱり僕にはよく解らない・・・かな。」
「解らない?何が?」
奏より半歩先を歩く征樹の背中に聞き返す。
「色々、人との距離の取り方も、自分の価値も・・・それこそ想う、想われる事も。」
征樹自身は、当然自分が屈折していると感じる事は多々ある。
下手をしたら、歪みに近いかも知れない。
「だから・・・それは・・・。」
それに関しては、奏も海で主張した事だ。
「うん。それは奏先輩には関係ない事で、僕が否定出来る事でもない。」
想いというモノは、困った事に一方通行だったとしても、止められるものではないと、それは理解した。
そこは相手任せ、相手の勝手なのである。
「でもね、僕もそういう風に考えてしまうのを止められないし、簡単に変えられたり出来ないのも同じなんだ。」
根が深い分、征樹の方がタチが悪い。
変えてゆくのも容易ではないだろう。
「それに僕は、奏先輩をよく知らない。先輩がどんなに僕を知っていたとしても。」
「葵くん・・・。」
征樹の言う事は事実で、寂しくも感じるが、それも征樹の勝手で奏が預かり知るところではないと断言されればそれまでだ。
「ただ・・・。」
征樹はこの旅行で交わした言葉の数々を全て思い出す。
「少しだけ・・・解ろうと思う・・・先輩の事も、周りの人達の事も。」
それはきっと悪い事だらけではないと征樹は考えた。
更に一歩の前進。
奏としては、自分以外も含まれている事が少し引っかかるが、それでも現状の征樹からしたら、概ね良い方向に転がったのではないか?
少なくとも、その場足踏みよりは圧倒的に。
「・・・うん。」
「妹さんの・・・歌南さんのコトも。」
「え?あ、うん。」
かなり複雑な気持ちだった。
(縁か・・・。)
ぼんやりと奏を眺めながら、海で出会った小さな少女を思い出す。
「もっと話したいな・・・。」
もっと参考になるかも知れない。
そんな風に思う。
「うん、色々、沢山話そう!」
「え?」
思考に割り入ってくる奏の声。
さっきの征樹の呟きを、自分への希望・願望の類いだと勘違いした奏が、両手をきゅっと握って息巻いている。
「あ・・・そこまで沢山は遠慮したいけど。」
面倒だし。
と、心の中で続きの言葉を述べる征樹に、奏は激しい程の精神的ダメージを受ける。
(もっと葵くんのコトを知らなくっちゃ・・・もっと葵くんの生活を、全て!)
ダメージを受けつつも、以前と同じ、いや、それよりも激しい情熱の炎を燃やす奏は、征樹を見つめる。
その瞳は、少々常軌を逸しているようにも見受けられるのだが、当の本人である征樹が気づくはずもなかった。
ヤンデレフラグ・・・。




