第ⅨxⅩ話:心のセンタク。
(空気が重いわ・・・。)
琴音のように冷静にも、杏奈のように熱くもなれなかったし静流は、帰ってきた室内で浮いてる自分が酷く中途半端に感じていた。
いっそ、どちらかだったら、ある意味すっきりしたかも知れない。
だが、告白を見守るという事を見守るという事をきちんと出来ないのも事実だ。
「さてと・・・。」
重い空気の中、琴音が声を上げると、周囲の視線がそこに集まる。
ちなみに現在、室内には全員がいる。
「温泉にでも入ろうかしら。」
短い時間とはいえ、海にはもう行ったのだから、他にやる事と言えば、土産を買うか、温泉に行くくらいしかない。
「征樹ちゃんも"また"一緒に入る?」
この爆弾発言がなければ、まだ良かったのだが・・・。
「"また"ぁ?」 「"一緒"に?」
ジロリと、ギロリと、杏奈と静流の視線が征樹へ。
「・・・琴姉ぇが、後から勝手に入って来たんでしょう?」
決して弁解ではない事実だけを淡々と返す。
「だって姉弟だもの。」
全く悪びれた様子のない琴音。
どちらかと言うと、ふふっと微笑んでさえいる。
「いや・・・それは・・・。」
何処から突っ込めばいいのか・・・。
一番は、"血が繋がっていない"という突っ込みがいいのだが、最早本人にはたいした効果も発揮はしない。
「ん~、じゃあ、皆で一緒に入りましょう?」
「いやいやいや・・・。」
呆れながらも律儀に反論する征樹。
どこまで琴音が本気で言っているかは解らないが、一つ判明した事がある。
琴音のこのテの発言は、"どちらでもいい"のだ。
つまり、今回の場合、一緒に入らなかったらそれはそれでいいし、一緒に入る事になったらそれはそれでいい。
どちらにも転んでもいという気持ちで発言しているという、そこは琴音の匙加減次第。
「なんで、そうなるかな・・・。」
溜め息をつく。
「・・・そうね、それもいいかも知れない。」 「でしょう、全く静流さ・・・はいぃ?」
溜め息をついた自分と同じように、反対すると思っていた征樹は、思わぬところで思わぬ反応が来て、乗り突っ込みのようになってしまう。
「・・・ここのお風呂、濁り湯でしたし。」 「は?」
次に反応したのは、奏だ。
勿論、彼女の発言の内容も、征樹の想定外である。
「濁り湯なら先に入ってればいいよね。私は湯船には浸かれないけれど・・・。」
なんと、何時も反対する杏奈までが同調する。
(・・・僕の立場は?)
心の中で呻く。
口に出せないところが、既に負けている。
「いや、皆、おかしいでしょ・・・一体どうしたの?」
単純な事を言えば、男と女の割り切り方の違いだけかも知れない。
だが、征樹は突っ込む事に集中していて、失念していた。
琴音とは既に共に入浴し、静流とはくちづけを交わして密着。
杏奈の裸を見て、そして今日は奏にすら好意を向けられたという事実の積み重ねを。
女性陣からしてみれば、征樹の事は少なからず好きだし、相応の恥部は見せてしまっているのだ。
今更と言えば今更で、今まであった躊躇いと牽制のような不思議なバランスも、多少なりとも崩れてしまった。
この変に重い空気を払拭するには、これくらいの事をしなければ・・・そう思い至ったとしても、誰が責められようか。
「征樹ちゃん?裸の付き合い、肌のブツかり合いって言うでしょう?」
相変わらずの120%スマイル。
「あれ・・・デジャヴュ?」
何処かで聞いた・・・確実に今朝方に違いない言葉。
「なぁに?征樹ちゃんは嫌かしら?私達とお風呂♪」
「うぐっ・・・。」
究極という名のトドメ。
入りたくはないが、嫌とも言えない。
別に男心がどうとかではない。
例の本能的な拒否権でもない。
単純に回避したいと思えるレベル。
そして、どう言えばいいのか解らないレベル・・・。




