第Ⅸ話:大人の女性の立場って。
静流は困っていた。
征樹程ではないが、湯船に肩まで浸かりながら。
と、いってもその大きな胸だけは、たぷたぷと湯船に浮かんでいたが。
「なんて切り出そう・・・。」
色々と方針を決めたまではいいが、征樹に切り出すタイミングが見つからない。
自分の主張を発言出来ないというのは、弁護士という職業からしても有り得ない事だ。
「困ったわ。でも、征樹君は最初から断るつもりだったのよね・・・。」
事実がちょっぴり重い。
育児放棄されている少年を保護して一緒に暮らす。
他の誰かに頼んでもいいが、それなら自分でもいいはずだ。
元々、これはそういう話なのだ。
自分は特に間違ってはいない。
でも・・・。
「断られたらどうしよう・・・。」
断られる=拒絶される
という図式が完成してしまった途端、少し怖くなった。
今までの自分が、誰かに断られるという事なんて無かった。
女性として性別的な意味で下に見られる事はあっても、クライアントとの仕事は内容でわかってもらえた。
変な話だが、男性にだって言い寄られる側だ。
基本的に強く断られたりする側ではない。
それが今回は違う。
ここからは未体験ゾーン。
普段の仕事のように、自分の意見を否定するような明確な敵と言える存在とも違う。
「はぁ・・・。」
溜め息をついて俯いてしまう。
すると目の前に浮かんでいた胸が、それに合わせて湯面と共に揺れる。
「・・・誘惑して言う事聞かせちゃおうかしら。」
はっと、思わず出た一言に首を振る。
今迄、自分が女性ということを前面に出した事なんてなかった。
仕事だったら尚更。
なのにこんな事で、そんな直接的な手段を取るなんて許されない。
「未成年なんだし・・・。」
もはや、そんな問題以前なのだが。
でも、ちょっぴりそれも最終手段的にいいかなぁとも思う。
じぃっと揺れる自分の胸を見つめ、そういえば征樹は余り他の男性のように自分の身体を見ないなと気づいた。
それどころか、ちゃんと目を合わせてくれない気がする。
「嫌われてるのかしら?」
強引な無神経女と思われたのだろうか?
あの父親の部下だからとか?
有り得ない話ではない。
そう思うと余計後ろ向きになりそうだった。
元々、後ろ向きになると立ち直るのが遅いタイプだと理解しているので、普段からそうならないように気をつけてはいるのだが。
そう考えると、どんどん思考が腐ってくる。
「下品な胸・・・。」
自分の身体さえも・・・。




