第Ⅷ十Ⅲ話:浮く人間、沈む人間。
砂浜で杏奈が悲痛な叫びを上げている中、一方の征樹達はというと・・・。
(すぐに冷やせる場所があって良かった・・・。)
こっちもこっちで大変だったりする。
免疫の低い思春期の少年、そうなるなというのも酷だ。
ましてや、一人ならまだしも刺激的な女性が4人も・・・いや、3人。
(・・・杏奈、どうしたんだろう?)
あんなに海を楽しみにしていた杏奈が、今はあれだ。
また何か、自分が気づかない点があったのではないだろうか?
既に前科一犯になっている自覚がある征樹は、気になってしまう。
(旅先でいなくなられても困るし。)
思いつめた杏奈の行動=失踪という図式になりつつあるのもズレいるし、酷い話だ。
実際のところは身体的なものによる、止むに止まれない事情なのだが。
「どうしたの、征樹くん?」
「いいえ、別に。二人は大丈夫か・・・な・・・て。」
声をかけてきた静流の方をふと見て固まる。
心配そうな表情の静流。
それはまぁいい。
問題は、彼女が前かがみに征樹の顔を覗き込むようにしている事で・・・。
俯いた征樹の視線に合わせようとされたその体勢は、違う場所、目と胸がばっちりの高さだった。
「そう。でも、そうやって何かを考え込んでいるのを見ると、私達も心配してしまうから・・・。」
そこでようやく征樹は、静流だけでなく奏も心配そうな表情で自分を見つめている事に気づく。
ついでに自分の馬鹿さ加減も。
考え事をしていて他が疎かになるという癖を何回直そうと思った事か。
それ以上に一人でいる事に慣れ過ぎているせいに。
(一人・・・か・・・。)
多分に自嘲を含んだまま、征樹は目の前にいる二人に向き直る。
「そういえば、二人とも泳げたりは?」
奏は別として、静流の水着は泳ぎに向いていない気が征樹にはして、何となく聞いてみる。
征樹にしてみれば、まさか皆が自分を喜ばせる為が第一目標で水着を選んでいるとは思うはずもない。
「一応、人並みには、かしら。毎週フィットネスクラブのプール程度だけれど。」
人並みと言えるのだろうか?
考える征樹に対して、静流自身も実は控えめに言ったつもりで、結構自信があったりする。
(だから、あんな凄いスタイル・・・。)
こちらもこちらで勘違い気味の奏。
スタイルで完敗どころか、劣等感を持つ奏としては致し方ない。
「奏先輩は?」 「ぴぇっ!」
一瞬で固まる空気。
「・・・泳ぎ。」
奏の上げたおかしな悲鳴を完全に黙殺した征樹が、更に問う。
判断としては正しいだろう。
こういう時は優しく見なかった&聞かなかったフリだ。
「わ、わた、しは・・・。」
ぼぉっと静流の身体を眺めていた恥ずかしさと、苦手としている泳ぎに関して突っ込まれて、どう返答したらいいものかと考える。
そして、それは完全に自分が泳げない事を露呈してしまっているのにも関わらずだ。
「泳げないの?」
だからこんなにもスタイルに差が出るのだろうか?
ふと、奏は突拍子も無い方向に考えてしまう。
「ちょっぴり苦手なだけで・・・で、その・・・。」
「はぁ。」
しどろもどろする奏に向かって呆れたような溜め息が聞こえて、一層縮こまる。
「・・・静流さん。」
「なぁに?」
「ちょっとの間いいですか?」
さっきの自嘲が征樹の中から消えない、消えてくれない。
だからなのだろうか?
心の中で、自分のこれからの行動に疑問符を投げかける。
「奏先輩、少しの間、一緒に泳ぎの練習しません?」
「でも・・・。」
チラリと静流を見る奏。
奏にとっては願っても無い事だが、それでは静流の相手をする人間がいなくなてつぃまう。
それに静流だって征樹と一緒にいたい、遊びたいはずだ。
それは自分も同じだから、尚更思う。
「そうね、私は構わないわ。」 「え。」
意外にもあっさりOKが出た。
静流にしてみれば、確かに奏の思った通りで残念なのだが、それよりも征樹の言動を尊重したいと考えた結果だ。
他人の興味を持てなかった、繋がりを作ろうとしなかった征樹が、自主的に誰かと関わろうとするのは、決して悪い事ではない。
とりあえずは身近にいる人間から。
そういう総合的な判断。
それが自分ではないというのは、やっぱり寂しいのだが、昨夜の魘され方を見てしまうと、そうも言っていられない。
征樹だって、自分に悪いと思ってまず一言断りを入れてくれたのだから、今はそれで充分。
そういう事にしておこうと。
「じゃ、私はしばらく泳いでから、琴音さん達の所へ戻ってるわね?」
「わかりました。」
征樹のプライベートレッスン(?)の始まりである。
段々とサブタイトルを考える事に疲れてきました(苦笑)
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