第ⅧxⅩ話:P・D・B(ピーチ・ダイビング・ボンバー)
タイトル、マジです。
突っ込まないで下さひ(爆死)
酷く陰鬱な気分のまま、征樹は浴場へと向かい脱衣所を抜ける。
人には会いたくない気分だったので、向かったのは昨夜の大浴場とは違う、4,5人用の貸切り風呂のようなところだ。
これだって小さくても温泉ではあったし、当然成分には変わりがない。
「下らない。本当、下らない人間だな、僕は。」
部屋で過ぎ去った様々な思考を湯につかり、顔面をお湯で流す事で振り払おうとしてみる。
「どうかしましたカ?」 「いや、別に。」
特に問題というわけでもない。
これくらい何時もの事だと自分に言い聞かせようとする。
言い聞かせようとするのだが・・・。
「あれ?」
「ハィ?」
湯だけでは流せない現象がソコには存在していた。
目の前、一面に満たされた湯気の先に、何処かで見た顔が。
というより、それが目の前にある事が、この場合問題だった。
「ぁ、オハヨウございマス。」
「おはよう・・・って違う。」
それでも律儀に挨拶だけは返すのが、征樹らしいと言えばらしい。
「ェッ?!何カ日本ゴ、間違ってますカ?」
昨夜出会った迷子の銀髪少女が征樹の目の前にいる事が、と彼は指摘したかったのだが。
「いや、それは間違っていないけれど、間違ってる。」
寧ろ、常識の方が、盛大に。
「アゥ・・・難シィ・・・。」
至って冷静に対処している征樹だが、脳内は猛スピードで回転していた。
(僕、札を"使用中"にしたよな?)
貸切り風呂の場合、他の人が入って来る事のないように、脱衣所の入口で"使用中"の札をかけておくのだ。
いくら、気分が落ち込んでいたからといって、そこまで抜けていないつもりだった。
(待て。僕が入浴してから、誰も入って来なかった・・・。)
つまりは、彼女は"自分より先に入浴していた"事になる。
(それって彼女が悪いんじゃ・・・。)
目の前の人物の浮かぶ胸元から下が黒い濁り湯で良かった、まだマシだったと思いながら。
「あのね、貸切り風呂というのは、入浴時は使用中の札を下げて、他の人が入って来ないようにするの。」
細かい説明は面倒なので、溜め息と共に割愛し済ます。
「デモ、オ風呂ハ"裸ノ突キ合ィ"なのでワ?」
微妙に発音がおかしい。
というか、誰だそんな言葉を教えたのは!
突っ込みたくなる衝動を、かろうじて抑えて、昨夜の卓球といい、知識の偏りっぷりに辟易とする征樹。
「中にはそういうの恥ずかしい人もいるでしょう?君だって。」
征樹ですら、ドキドキする自分を必死に抑えているというのに。
本当に濁り湯で良かったと。
(トップレスみたいなのと同じ感覚なのかな、外人さんって。)
偏った知識であるのは、征樹も人の事は言えなかった。
「ちょっピリ。ウ~ン・・・。」
昨夜と全く同一の唸り声を上げて考え込む。
これが彼女の一つの癖なのかも知れない。
「ェト、"郷ニ入れバGOしてシマエ"?」
「ある意味、間違ってないけれど、ある意味で大間違い。」
何を言い出すのかと待っていればコレだ。
「ともかく、カップルや家族でない限りは男女で入らない。OK?」
「ナントナク。」
返答の何とも言えない微妙さ加減に溜め息をつかざるを得ない。
「ァ、デモ、モゥ出ますカラ!」 「ちょっと?!」
立ち上がる彼女を押し留めようとした征樹の手は空を切り、大量の水飛沫を弾けさせながら、陶器の様な白さが彼の視界を覆う。
長身に程よくついた健康的な筋肉と丸みのあるライン。
「ァ・・・。」
征樹の視線に気づくというより、完全に晒している事に気づいたのか、ようやくそこで自分の身体を手と近くにあった手拭いで隠す。
「ェト・・・オ粗末さまデス・・・。」
それはもっと違う。
突っ込む事も出来ないまま、走り去って行く後ろ姿を反射的に目で追って・・・慌てて視線を逸らす。
何故ならば、そこに白い桃が踊っていたから・・・。
(頭隠してなんとやら・・・。)
まぁ・・・お約束?
とうとうここで、下書きの紙が100枚に到達しました。
紙媒体好きだなぁ、私。(汗)




