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貴方と背中を合わせる理由。(仮)  作者: はつい
第伍縁:加速しない想いは恋じゃない・・・・・・?
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第Ⅶ十Ⅷ話:何処に行こうと闇はある。

 適度に明かりを落とし、薄暗くなった部屋の中で、静流は鏡台に向かって肌の手入れをしていた。

照明を落としたのは、征樹が部屋に戻った途端に睡魔に襲われたのと、静流が自身のすっぴんを見られたくないかったからだ。

正直、裸を見られるよりも恥ずかしい。

裸を見られるのも恥ずかしいが。

 トランプ勝負は3回戦目の大富豪で琴音が勝利して終了となった。

この時の最下位は征樹。

ちなみに皆が一番望み、期待していた征樹への琴音の質問は『お姉ちゃんのコト、スキ?』だった。

盛大に皆がコケた後、征樹が『好きですよ?』と、あっさり一言述べた時点で一気に毒気を抜かれ、お開きに也候。


「私も・・・好きって言われたかったな・・・。」


 自分の場合、例え同じ質問をしたとしても、同様の答えが返ってくるとは限らない。

寧ろ、確率は低いだろう。

それがちょっぴり切ない。

だが・・・。


(今日は誰に気兼ねなく見ていられるもの。)


 今夜の征樹は、自分と同じ部屋で隣のベッドで眠る。

静流にとっての天使の寝顔を見放題。

肌の手入れを終え、自分のベッドに腰かけると、征樹の顔をぼんやりと覗きこむ。

普段起きている状態とは違う、どことなくはにかんだような、あどけない表情。


「カワイイ・・・。」


 至福。

無防備な寝顔を見られるという、傍らにいる者の最大の特権を味わう。

この特権は誰にも渡したくない。

というよりも、征樹を渡したくない。


(・・・誰のモノでもないけれど・・・。)


 規則正しい寝顔を胸の上下運動。


「ぅ・・・。」


 時折漏れる吐息までもが愛しい。

どんなに眺めても飽きないだろう。

そう思った矢先、征樹の眉間に皺が寄り、整っていた寝顔が崩れる。


「征樹くんっ。」


 呻き声までも上げ始めた征樹の異常事態に、静流は慌てて駆け寄り掛け布団を跳ね除けた。

駆け寄った勢いのままベットの上に乗り、征樹の身体に覆いかぶさる。


「征樹くん、征樹くん!」


 身体を揺らし、頬を軽く叩く。

全ては征樹を悪夢から呼び醒ます為に。


「ぁ・・・。」


「征樹・・・。」


 何度目かの呼びかけで、ようやく征樹が瞼を開く。


「大丈夫よ。」


 努めて優しくそう微笑むと、静流はそっと征樹の額に浮かぶ汗を拭う。

拒絶する事なく、その動作を受け入れる征樹。


「・・・あの・・・。」


 半覚醒、夢見心地のままで何とか言葉を紡ごうとする征樹を見て、静流は小難しい大人としての思考を停止させる事にした。


「いいのよ・・・。」


 払い除けた掛け布団の端を持って、静流は征樹のすぐ横に身体を横たえる。

その間、静流は言葉を発する事もなく征樹も同じだった。

結局、何の抵抗もないまま、征樹は静流の腕の中におさまる。

或いは、未だに彼は夢と現実の区別がついていないのかも知れない。


「大丈夫。私は一緒にいるから。そう約束したでしょう?」


 水が大地にしみ込むように、その言葉は征樹の心の中に入っていったのだろうか、彼の頭が静流の胸元にゆっくりと沈んでいく。

その温もりや、くすぐったさが静流には心地よい。

それは恐らく征樹にとっても、心地よいものだったに違いない。

たまらず静流は彼の後頭部を撫で、愛しさで一杯になる。


「一緒よ・・・。」


 再度、そう声をかけると微かに征樹が反応した気がした。

どんなに日々が楽しくとも、旅行という日常から離れた状態に置かれたとしても、征樹にとってトラウマのようにこびり付いた孤独感や絶望感は消える事はない。

その傾向は未だに根強くあるのだ。

だから、静流は深く考える事をやめた。

征樹に対する一切の事を。

ただ征樹が愛しい、ただ征樹の傍にいるのだと、言葉でなく態度と温もりで伝えるしかない。

だから、彼女は実行した。

微かに身体を震わせる征樹が落ち着いてきても、身体を離す事はしなかった。


そして、旅行初日の夜は更けていく・・・。

ようやく初日が終わりました・・・疲れた・・・。

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