第Ⅶ十Ⅲ話:人生はいつも択一式?
(風呂上りの定番は、コーヒー牛乳か、はたまたフルーツ牛乳か・・・。)
昔懐かしの四角柱の冷蔵庫を眺める征樹。
恐らくテレビか何かの受け売りだろう。
ちなみに女性陣は、未だ入浴中だ。
征樹だって、女性のそういう部分は買い物の時と同様、心得ているつもりだ。
第一、髪一つ洗うにしても、何か色々工程(?)があって、乾かすのだって杏奈以外は長さがある。
(静流さんだって、何であんなボトルの数が必要で並んでいるのか解らないし。)
自宅の風呂場の光景が頭を過る。
「・・・杏奈は、もう髪を伸ばさないのかな・・・。」
本人には何故だが聞けず、また口に出せない言葉を吐く。
人の髪型に口を出せる程、自分は偉くないと思いながら。
「ウ~ン・・・。」
「?」
二択のうち、コーヒー牛乳を選択して、瓶を手に持った征樹の耳に唸り声が入る。
いつもの征樹であれば、最初から自分に関係ないものとして、聞き流すどころか耳にも入らず排除するのだが。
今が待ち時間であり、特にする事がないのと、旅行先というのが災い(?)したのか、声の主を探し始める。
(・・・外人さん?)
綺麗なシルバーブロンド。
・・・と、その背。
(僕より・・・頭二つ分以上は高いな。)
実際には腰の位置からして違うのだが。
「ウ~ン・・・。」
再び、唸り声。
征樹はチラリと壁にかけてあった立派な柱時計を確認してから、その人物に近づく。
「えぇと、May I help you?」
英語圏の人間とは言い切れなかったが、これで通じなければ放っておけばいいや。
と、優しいのかそうでないのか全く理解に苦しむ思考回路で彼は声をかけた。
これも旅行のハイテンション効果の一つ。
「ァ・・・日本ゴ・・・ダイジョウブ。」
(逆に僕のが恥ずかしい。)
慣れない事をするものじゃないという典型的パターンだ。
シルバーブロンドのショートカットに青い瞳、そして白い肌。
(何処の国の人だろう?)
返ってきた返事が日本語だけに、余計に予想もつかない。
たとえ、母国語で返されても解らなかっただろうが。
少し見上げる形になる身長差で、少し首が疲れそうだなどという失礼な感想を抱く。
だがそれに対し、ほんのりと恥ずかしげに頬を染め俯くその少女は、位置的には意外と視線を合わせ易かった。
「で、どうかした?」
日本語が通じるなら、もう話は早い。
「・・・卓球台ガ・・・。」
(卓球台?)
そんな物は少なくとも征樹はこの旅館内では見ていない。
「日本の、温泉、卓球アルって・・・。」
「あぁ、成る程。」
見た事は征樹もある。
テレビでだが。
このテの外人の思い込み、誤った知識などよくある事だし、寧ろこの程度なら可愛らしいだろう。
(・・・実際、身長に似合わず・・・小動物?)
緊張した面持ちで征樹の解答を待っている相手に対しての印象がコレである。
「ここは、そういうタイプの旅館じゃないから、卓球台はないみたいだよ?」
「ソウ・・・。」
寂しそうにがっくりと肩を落とす少女。
いったい、どれだけ浴衣卓球に期待を寄せていたというのだろうか?
日本人である征樹には、全くわからない。
「やれやれ・・・。」
征樹は苦笑しつつも、先程コーヒー牛乳を手に入れた冷蔵庫へ向かうと、代金を支払いフルーツ牛乳を取り出す。
「はい。」
取って返すと、今手にしたばかりのフルーツ牛乳を少女へ。
「・・・?」
「あげる。こんな事で日本を嫌いにならないでね?」
旅先の第一村人ではないけれど、多少の縁で触れ合った日本人としては、なるべく悪い印象を持って帰って欲しくはない。
何よりも旅先なのが、功を奏していた。
ここならば、誰も征樹を気にしないし、偏見も持たない。
ある意味、好き勝手したり、ハメを外したりする事も可能だった。
だから・・・。
「ア・・・リガト。」
「うん。んじゃ。」
少女がおずおずと出してきた手にフルーツ牛乳を手渡すと、再び女性陣を待つ時間に戻ろうと・・・。
「うぐぅっ。」
上から浴衣の襟首を持たれて、引っ張られた。
「・・・何?」
身長さのせいで危うく絞まりきる衿に指を入れて、引っ張った張本人を下から睨む。
先程の優しい日本人の印象はそこには微塵もない。
「ァ・・・部屋ガワカラナイ・・・。」 「は?」
今度はまさかの迷子だった。
「ス・・・。」
「ス?」
「スザンヌの間・・・。」
「すざ、スザンヌ?あぁ・・・。」
きっとそれはスザンヌではなく、朱雀の間の事だろう。
そう征樹は気づいて、小さく溜め息を漏らした。
体調崩しました・・・げふぅ。




