第Ⅵ十Ⅷ話:What's the Date?
今回は丁度いい長さってどんなものだろうと思い、【花束】の最低ライン近くまで増やしてみました。
「半分は・・・こうなるんじゃないかと思ってたとしてもだ・・・でもさ・・・。」
予想はついていたのにも関わらず、征樹は辟易としていた。
それはつまり、予想はしていたが、それよりも上に行かれたという事に他ならない。
「ね、こんなのはどーよ?」 「あぁ、いいんじゃないか。」
このようなやりとり、もはや彼にとっては作業のようなオウム返しをしたのは、何度目か。
「なんだよー、反応薄いゾ。こんな可愛い水着姿を見せてるのに。」
「はいはい。」
征樹の目の前には、薄水色のスポーツタイプの水着を身につけた杏奈がポーズをつけている。
黄色の縁取りをされた水着は、セパレートタイプで彼女の可愛いおヘソが、征樹に向かって主張していてキュートだ。
同年代の女子より大きな胸は、がっちりと覆われてガードされている。
「感想をきちんと述べよ!」
海に行く予定のもと、征樹は(強制的に)水着を駅前のショッピングモールに買いに来ているのだが。
もうかれこれ二時間近くはこうなので、いい加減うんざりしていた。
勿論、征樹自身は一応覚悟をしていたつもりだ。
"女性の買い物は長い"と。
だが・・・。
「可愛いな・・・ヘソが。」 「ヘソだけ?!」
予想以上だった。
一方、杏奈にしてみれば、夏のイベントの前哨戦、そう思っただけでテンションが上がる。
それなのに征樹の反応は、芳しくないものばかり。
(もう少し・・・大胆でもいいのかな。でも、恥ずかしいし・・・。)
「葵君、そ、その、私のはどうでしょう?」
杏奈がそう悩んでいる横で、隣の試着室のカーテンが開く。
杏奈と一緒に奏も来たのだ。
ピンクのワンピース。
しかも、胸と腰周りにフリフリがついた水着。
年齢的にはどうかと思うが、小柄な奏にはとても似合っていて可愛らしい。
「可愛いね。」 「う・・・。」 「あ・・・。」
未だ敬語身につかず。
互いの視線が交差する。
片方は赤面、片方は敵意に近いソレだったが。
(スタイルで負けてもコレなら!) (先輩を先に褒めるなんて!)
完全にバチッと火花が散っている。
奏としても、杏奈としても、退く訳にはいかないのだ。
「征樹くん、どうかしら?」
杏奈から見て、奏とは反対側の試着室から現れたのは静流だ。
水着を征樹に見せる為にくるりと一回り。
ホルダーネックタイプ、いわゆる首から下げる形の濃紺の水着は、彼女の背中を大きく露出させている。
首下にはワンポイント、ダイヤ型に切り抜かれていて、谷間もきっちりと・・・。
「派手・・・かな?」
無言の征樹に少しばかり大胆過ぎたかと反省するも、そこは隣にいる杏奈達には若さの時点で大きく溝を開けられている分、勝っている点で勝ちにいくしかないのだ。
(卑怯・・・。) (う~。)
杏奈だってスタイルはいい方だが、流石に大人の女には勝てない。
奏など、勝負の舞台にすら立てない。
「・・・そんなコトはない・・・と、思います。」
反応に困ったり混乱すると、急に無言になったり口数が増えたりするのが征樹の癖のようだ。
赤面しながら、視線を逸らすそんな征樹の態度に心の中でガッツポーズ。
非常に大人気ないが、恋は非情な勝負也。
静流にしてみれば、奏までもが参加するのも気に食わないのに、征樹と二人だけで行く予定だった買い物にすら、余計なオマケが乱入して来ているのだ。
多少の良いメを見れたっていいではないか、と。
しかも・・・。
「じゃじゃ~ん。征樹ちゃん、お姉ちゃんの水着はどうかしら?」
琴音まで何故かいるのだ。
白いフリルのついたビキニに花柄のパレオを巻いた琴音が、静流の横の試着室から現れ、そして他の全員の視線が、一斉にその胸に向けられる。
(・・・負けた。) (反則!) (うぅ~。)
順に静流、杏奈、奏だ。
スタイルには自信のあった静流だが、完全に負けたとがっくり。
杏奈も同じだ。
奏に至ってはもう涙目。
「ちょっとハリキリ過ぎちゃった?」
そう笑う琴音の姿を見て、赤面するよりも征樹は安堵していた。
(良かった・・・傷跡が、なくなってて・・・。)
水着で隠されている所以外の露出している部分には、痣一つ見当たらなかった。
それが少し嬉しい。
直視するに恥ずかしいのは変わらないが。
「綺麗です。」
「あら、まぁ♪褒められちゃった♪」
征樹にしてみれば肌の事を思わず口に出してしまったのだが、それはそれで琴音が喜んでいるので、良しとしたのだが、俄然面白くないのは他の女性陣である。
「征樹くん、もう一着見てくれる?」 「あ、私も・・・。」
静流に続いて、奏が声を上げる。
(もっと大胆に・・・大胆に・・・。)
杏奈は無言のまま、一番最初に試着室のカーテンを閉めていた。
堪ったもんじゃないのは征樹だ。
「あ、僕は自分の水着買ってくるから、皆はその間に決めてて。」
久し振りに例の"脱兎的逃走"を敢行。
戦略的撤退でも可だ。
「ふぅ・・・。」
その場をようやく離れて溜め息をつく。
静流と杏奈と海に行く予定が、奏を誘って、ノリノリで琴音が何時の間にか参加する事になった。
「行く前からコレか・・・。」
先が思い遣られる。
試着室の前にいるというか、四人の年齢もバラバラな女性陣の中で、男一人というのはただでさえ目立つ。
しかも全員が全員、魅力的な女性なのだ。
「ヤレヤレ・・・。」
溜め息以外出て来ないのは仕方がないと、征樹は腹を括ったのであった。
文字数はこれぐらいがやっぱりいいですかね?
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