第Ⅵ十Ⅲ話:アナタと迎える朝に。
「ん・・・。」
ぼんやりと瞼を開き、見慣れた天井を視界に入れる。
たっぷりと眺めて時間が経過して、チラリと横を見ると・・・。
「杏奈!」
横で寝ていたはずの杏奈の姿がない事に気づき、ガバっと身を起こす。
何時の間にか自分の身体に掛かっていた布団がまとわりつくのと格闘し、ようやくそれを引き剥がすのに成功、無様にドタバタと寝室から出る。
「杏奈。」
玄関に向かって駆けて行くと、そこには自分のより小さな靴がある。
「どしたの征樹?あぁ~、怖い夢でも視たんでしょう?」
玄関から居間へ続く廊下のドアから、杏奈がひょっこりと顔を出している。
朝から嫌な汗と動悸に襲われた事にげんなりする征樹とは裏腹に、杏奈はぐっすりと眠ったのだろう元気だ。
少なくとも、表面上はそう見える。
「杏奈・・・。」
「何?あ、もしかして・・・えっちなユメの方だった?」
「朝からソレか・・・。」
一日の始まりはこれからだというのに、もう突っ込む気力すらない。
「あはは。朝ご飯作ったよ。食べよう?」
「・・・あぁ。」
フラフラと居間の椅子へと座る征樹。
彼は超がつく程の低血圧だ。
朝から飛び起きて、布団と格闘後、玄関まで全力疾走などしたら、貧血を起こしかねない。
多少、フラつくだけで済んでいるのはまだマシな方だ。
「・・・・・・いただきます。」
「どうぞ。」
朝は和食派の征樹だったが、目の前にあるトーストとスープと目玉焼きだけでも文句は言わない。
折角、杏奈が作ってくれたのだから。
その辺りは、非常に律儀だ。
「今日は学校どうするの?」
念の為、征樹は尋ねる。
最悪、杏奈が今日もサボるというのなら、自分も休もうと決心していた。
朝起きて隣で寝ていたはずの杏奈がいないだけで、今の自分はあぁなのだから。
それに杏奈は無断外泊になってしまった。
彼女の親に謝るなら一緒にとも思う。
(・・・逆に火に油を注ぎそうだけれど。)
「あー、うん、行くよ。一度家に帰って着替えてね。」
「着替え?制服なのに?教科書だって学校に置いてあるんだろ?」
それでどうやって予習・復習をしているのか、常々疑問に思っている征樹ではいたが。
「あー、うん、ほら、変えたいし、さ・・・。」
「ん?」
何を言っているのか征樹には、全く理解出来ない。
「だぁーからぁーらっ!下着!今だってはいてないんだからね!」
「・・・・・・僕が悪かった。」
素直に謝ってしまう。
「あ、ちゃんとスカートの下に、征樹から借りた短パンはいてるから。」 「当たり前だ。」
それじゃあ、ただの痴女じゃないか。
と、思っても、とりあえず言わないでおく事にする征樹。
「あ、見たい?」 「キミは痴女か。」
言わないでおこうと思ったフレーズをあっさり解禁して、思わず突っ込む。
しかし、それは仕方ないと言い聞かせる。
だって、余りにも含みのある杏奈の笑いにムカついたから。
何か言ってやらないと気が済まなかったのだ。
「・・・そか。昨日、もう全部見ちゃったもんね。」 「うぐぅっ。」
流石にそれはないだろう。
そういう非難じみた目で征樹が自分を見つめてくる表情が、思いの他可愛く、杏奈は顔が熱くなるのを感じる。
どう考えても、"自爆"だ。
「あ、そ、そだ、征樹。今度の試験が終わったら、何処か行こうよ!その、"皆"で。」
無理矢理、話題を変える事にした。
本当に無理矢理も甚だしいが。
「これから夏休みだってあるしさ、ね?"皆"でさ。」
あれだけの事をしでかしたというのに、二人でとは言えない自分もチキンだと思いながら、とにかく征樹が乗ってくれる事だけを願う。
「・・・・・・その前に、試験で補習になるなよ?」
少しだけ思案した征樹が発した答えは、コレだった。
「え・・・えぇっ?!じゃ、じゃあ?」
「考えとく。」
杏奈は知っている。
征樹の考えとくは、"大抵の場合OK"だという事に。
嫌だったら、最初から嫌だと相手が誰であろうとはっきり主張するのが葵 征樹クオリティなのである。
杏奈の頭は途端にこれから、起こるであろうイベントで一杯に。
「ただいま。あぁ、ほんと、疲れ・・・あら?」
ようやく帰宅出来た静流の目の前に座っている二人。
「おかえりなさい、静流さん。」
迎える征樹の微笑みにそこはかとなく癒されていくのだが、早朝から杏奈が、しかも二人一緒に朝食をとっている光景というのが、少し気に喰わない。
「あ、そうだ。静流さんも朝食食べますか?」
「え、あ、うん。」
「じゃ、アタシ、用意するね。」
この新婚夫婦の朝みたいな光景は一体何だ?
静流はそう思った。
席を立つ杏奈は、そんな風にして思考している静流を見ると。
「征樹、この短パンちゃんと洗って返すからね?」
バサリと自分の制服のスカートの裾をめくって、短パンを征樹ではなく静流に見せつける。
「別にそんなに気にしなくていい。」
そんな杏奈の思惑も露知らず、いつも通りの無関心さで流す征樹だが、静流にとっては流して済ませられる事ではない。
「なんで、杏奈さんが征樹くんの短パンを?」
「あぁ、パジャマ代わりに昨日貸したんですよ。」
「ぱ、パジャ・・・マ?」
パジャマというコトは、そういうコトで・・・と、静流の脳裏に想像図がおぼろげに・・・。
「昨日、色々あって泊まったから。」
「色々・・・。」
想像図に更にピンクのフィルターが・・・。
「その辺りの説明は何というか・・・あ!杏奈!僕、遅刻するのヤだから先に行くよ!」
「あ゛~待って!一緒に出る~っ!!」
慌てて静流の前に皿をがちゃがちゃと並べる杏奈。
「静流さん、いってきます。」
「あ、いってらっしゃい。」
「あれ?いってきますのちゅーとかしないの?」 「アホ。」
杏奈の軽口を一刀両断する征樹。
同じ制服の二人が玄関で並んでいるのをただただ眺める静流。
もし、同年代だったら・・・自分はそういうコトをしてもいいのだろうか?
「え~、じゃアタシがしてあげよっか?」
そう思った矢先、同年代である杏奈が静流の思考を読んだかのように征樹に問う。
「いらない。」
返す刀で更に両断。
だが・・・。
(もう昨日しちゃったんだけどネ。) (実はキスしちゃってるのだけれど。)
心の中で一人で優越感に浸りほくそ笑む杏奈だったが、実はその一点に関してならば静流も同じライン上にいる。
ただ越えられない年齢の壁と、昨夜二人の間の出来事を知らない分で、天と地程のテンションの差異はある女性二人だが。
そんな中で、やっぱり今日もいつも通り一人だけマイペースな征樹がいる。
結局それは変わっていないのだった。
とりあえず杏奈編(?)の消化ですかね。
下書きをしているとはいえ、プロット状態のまま垂れ流しまくりの本編ですが。
恋の決着はまだまだみたいです。
むしろ戦いはこれからでしょうか?
果たして静流さんの逆転はあるのか?!
ところで、皆さん、征樹くんと誰がくっついて欲しいですかね?(爆死)
・・・プロット段階にいた忘れてたヒロインの出番はあるのだろうか・・・(汗)




