第Ⅵ十Ⅱ話:ヒミツは日常に溢れてる。
気づけば習作のこの話もルーズリーフ80枚超えをしてしまった・・・(汗)
それなのに未だにこなれないこのカンジ。
もうダメなんじゃないかと思いつつ・・・でも、こういうのを書いていると人気投票をしたくなる気持ちが少しわかります(苦笑)
洗い物を終え、征樹は自分の入浴も済ませると、先に就寝したであろう杏奈の様子を確認しに寝室を見に行った。
未だ征樹の胸のモヤモヤは晴れてはいない。
嫉妬や怒りではないと、自分なりにしっかり理解している。
「杏奈?大丈夫?」
何が大丈夫なのだろうかと自分に突っ込みながら。
「ねぇ、征樹。」
暗闇の向こう、掛け布団を被ったままベッドの上で手招きしている杏奈がぼんやりと見えた。
「何?どうかした?」
「征樹は・・・どう思う?」
掛けていた布団を下ろすと、真っ白な肌が征樹を迎える。
「ねぇ・・・どう?」 「杏奈ッ!」
征樹は部屋の中になだれ込むと、素早く落ちた掛け布団を拾うと杏奈を包んでそのまま抱きしめる。
「・・・そんなに見たくないかな?」
「杏奈・・・。」
「そんなに穢らわしい?そんなに見るに耐えない?!」
「杏奈!」 「答えて!アタシを見てよ!」
じたばたと征樹を突き飛ばそうともがく杏奈を、ひたすら必死に抱きしめる。
「杏奈!・・・大丈夫だから・・・杏奈は綺麗だから・・・ちゃんと、見えてる・・・から・・・。」
自分を抱きしめる征樹の声が震えている事に、杏奈は気づいて少し落ち着きを取り戻す。
二人を包む、互いの体温と耳元に感じる吐息。
「征樹?」
手を自然と征樹の背に回し、ゆっくりと自分に引き寄せると静かに力無く倒れ込む。
「・・・・・・泣いてる、の?」
限界だった。
杏奈ではなく、征樹の方が。
今、"後悔"という言葉が、征樹の中にある。
「ねぇ、征樹・・・今日はこのまま寝て、いい?」
征樹からの返事はない。
けれども、"否"という返事もなかった。
そして、どれくらいの時間が経っただろう。
征樹の涙が止まり、互いの心が互いの温もりで満たされた頃、どちらともなく自然に身体が離れる。
とはいえ、杏奈は布団の下は一糸纏わぬ姿なので、征樹はすかさず杏奈に背を向けたが。
「杏奈、ごめん・・・。」
更に時間が経って、征樹が声を漏らす。
「僕がもっと人と関わっていれば気づけたのに・・・二度とも。」
一度目は杏奈の頭から髪飾りが無くなった時、二度目は彼女が長かった髪をばっさり切った時。
気づけたはずだ。
ずっとずっと杏奈の話を聞いていたのだから特に。
人と関わる事が面倒だと思っていたが、関わらない事で必要以上に傷つく人間がいるなんて思ってもみなかった。
「・・・杏奈?」
反応のない背中の人物に身体ごと振り返る事が出来ずに、チラリと視界の端にだけ入れられる様な位置まで首を動かす。
「寝たの?」
やはり反応はない。
しばらくそうやって相手の様子を伺う征樹。
「・・・おやすみ。」
正直、征樹自身も疲れ切っていた。
いくら杏奈から目を離すわけにはいかないと思ったとしても、やはり耐え切れるものではない。
そのまま、ぶつりと意識を手放すのにそう時間がかからなかった。
やがて静かな寝息が聞こえてくると杏奈はパチリと瞼を開く。
もそりと身体を起こし、征樹の顔を覗き込む。
(寝顔は可愛いんだけどなぁ・・・。)
初めて見る征樹の寝顔の余りにも無防備であどけない表情に、一人ドキリとする。
確かに彼の言う通りまだまだ新しい発見がある。
好物第二位のオムライスに、寝顔に。
「ちゃんとアタシのコト、見ててくれてたんだね。」
それだけでも嬉しい。
征樹はしきりに謝っていたけれども、今日だって見つけてくれた。
自分が"髪飾りを買ってもらった思い出の場所"に。
「征樹、あのね、征樹が知らない大事なヒミツがアタシにはまだあるんだよ?」
杏奈の手が宙を彷徨う。
「アタシはね、好きなんだ。征樹が大好きだよ。」
彷徨う手は、征樹の頬にたどり着いて。
「・・・大好き。」
今度は杏奈の唇が、征樹の唇へたどり着く。
「・・・おやすみ、征樹。」
土日更新致します。
次回、第肆縁ラストです。




