第Ⅵ十Ⅰ話:幸せの黄色いオムライス。
黄色くないオムライスって一回しか食べた事ないのだけれど・・・(苦笑)
「ただいま。」
自宅に帰って、その言葉に対する返事がない事に征樹は首を傾げる。
未だに握った杏奈の手は離さずに。
「静流さん?いないの・・・かな?」
仕方なく杏奈を居間へと促し、一息つく。
居間のテーブルにはメモがあって、そこには引継ぎをした仕事のトラブルで明け方過ぎまで静流は帰れないという旨が書かれていた。
「・・・携帯、必要かな?」
行き違いも甚だしいこの状況に思わず漏らす。
このご時世に携帯を持っていないというのは、確かにアレだが、征樹は今まで困った事などなかった。
必要を感じる事が、特になかったから。
電話する相手など、瀬戸と冬子くらいしかいない。
しかも、瀬戸は近くにいるし、忙しい冬子に電話する事も滅多にない。
自宅なんて、誰もいないのだから論外だ。
征樹は今後も考えて、後で検討する事にした。
とりあえずと、今は杏奈を見る。
何時もより小さな印象に征樹には見えた。
「何か食べて、それからお風呂にでも入って温まろう。」
ぽんっと、杏奈の頭に手を置いてから、征樹は台所へ向かう。
そんな彼の姿を見て、杏奈はまた涙が溢れそうになる。
この先、どうなるかはわからないが、現状は征樹は何も変わらないように見える。
或いは受け入れてそうにも思えた。
でも、それは友人としてだろうか?
それとも・・・。
さっきのやりとりだけで、果たして何処まで通じ合えたのか。
何も伝わってないような気も杏奈はする。
「アタシは・・・征樹のコト・・・。」
その先を言ったとして、どうなのだろう。
というより、どうなりたいのだろう?
頭が全然整理されず、ともしたら無限ループに陥ってしましそうだ。
そんな思考をする中で、やがて杏奈の前に皿が出される。
黄色いドーム。
「オムレツ?」
「オムライス。」
杏奈の言葉を訂正すると、皿の横にオニオンスープを置き、自分も席に着く。
「第一位はカレーライス。これは第二位。」
征樹の好きなメニューランキングだ。
「初耳・・・。」
「言った事ないしな。死んだ母さんが作ってくれた物の中で、うっすらと記憶に残っているモノだから。」
オムライスを見つめる二人。
「なぁ、杏奈・・・。」
料理を作っている間、何と彼女に言葉をかけようか、征樹はずっと考えていたけれど、結局あまりいい言葉など思いつかなかった。
耳障りの良いだけの言葉は、きっと杏奈だって望んでなどいない。
それは誰の目にも明らかだったから。
ある意味で、征樹の人間関係の希薄さ、経験の無さが彼の語彙を狭くしているのだろう。
けれど、杏奈には何かを言わなければいけない事だけは理解出来た。
「こんな風に互いに知らない事なんて沢山ある。でも、それは当然じゃないのか?100%なんて、一生無理だと思う。僕は超能力者でもなんでもないし・・・でも、僕は"今、杏奈の目の前にいるよ。"」
自分でもどう表現して言葉にしたら、整理したらいいのかわからなくて、支離滅裂にすらなっているのは自覚出来ている征樹だが、逆にこれでいいんじゃないだろうかとも思う。
下手に取り繕うよりはだ。
「うん・・・。」
そう一言。
けれどもしっかりと杏奈は返事をして、オムライスを口へ運ぶ。
「・・・おいしいね。」
呟いて、笑う。
「着替えを用意しておくから、食べ終わったらお風呂にでも入って・・・それで、今日は泊まっていけ。」
問題発言のようにも聞こえるが、それでも杏奈を一人にしておく事が出来ないという想いが強くて、征樹にしては珍しく強い命令口調でそう述べる。
言われた側の杏奈は、言葉の意図は違う意味で考えて、顔が赤くなるのを隠しながら・・・。
「征樹も一緒に入る?」
「ばーか。」
呆れながら答える征樹に、杏奈は何時もの笑顔を返した。
杏奈編はあと2話でとりあえず、締めますです。




