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貴方と背中を合わせる理由。(仮)  作者: はつい
第肆縁:出会いは化学反応のように・・・・・・?
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第ⅩⅩⅩⅩⅩⅧ話:人間という名のト音記号。

 緑の多い中庭を擁する公団の様なベージュ色のマンション群。

筍のように生えたマンション棟の中の一室、その扉の前に征樹は立っていた。

そして、悩んでもいた。

無断欠席という征樹の判断が正しければ、家に誰かがいる可能性は低いだろう。

杏奈本人すらいないかも知れない。

かといって、探し回るアテが他にもあるかというと、あるわけもなく。

つまり、このまま家の扉の前で待ち続けるという流れが待っているかも知れない。


「まいったナァ・・・。」


 待つハメになる事がではなく、杏奈の事を今更ながらよく知らないという事にだ。


「・・・不公平・・・だよな?」


 自分は家族構成も、大好物第1位も、自宅の中も知られている。

ただの一言、"不公平"という感想で済ませるのが、彼のクオリティとも言えるが。

とりあえず、何の考えも無くインターフォンを3回程プッシュ・・・・・・反応はない。

部屋の中で、お決まりの音が微かに響いているのが聞こえただけだ。


「ふむ。」


 そして、何を思ったのかそのまま【押】と刻まれたボタンを連打。

ひたすら連打。

そして連打。


「やっぱりいないか。」


 杏奈の普段見られる気性から、これだけやれば流石に出て来るはずだ。

そう思って誰もいないマンションの廊下で幻の○○連射(バネ入り)まで披露した。

さて、と気持ちを切り替えて思考タイムに突入する征樹。

次の選択肢は二つ。

【a.扉の前で待つ】 or 【b.町を探す】

前者は、誰かがこの家に帰ってくるという前提条件の下では確実だ。

後者は探す場所をまず推理しなければならない。

今回は何時もの自分が取るだろう"帰宅"という選択肢は除外。

確率の差はあるが、とちらも確実ではないという事に変わりはない。

しかも、無断欠席という点を考慮した場合、待ち続けて事情を知らない杏奈の親と遭遇というのは、よろしくない。


(と、いっても杏奈のコトか・・・。)


 先程、何も知らないという不公平感に塗れたばかりだ。

それでも考えてみようと、征樹には上出来な選択をする。

一番最初に浮かんだのは、ゲーセン。

だが学校に来たくなくて、自宅すらいない杏奈が行くだろうか?

無断欠席ならば、朝は制服で出ている可能性もある。

それでは一日中はゲーセンにも居られないし、目をつけられたり補導されたりしてしまう。


(寧ろ、静かな所か?)


 真っ先に浮かんだのは図書館だが、もう閉館時間はとうに過ぎている。

それから、公園、川の土手。

あまりにも捜索範囲が広過ぎる。

そのうちに、征樹は考える事すら面倒に思えてきた。

誰だ、『人間は考える葦である。』とか言ったヤツと脳裏に過ったりも。


「あぁ、あれは知るという事に関する哲学か・・・ちょっと違うな。」


 パスカルのパンセの一節に逸れ、杏奈の事を考えるのを放棄しそうになる征樹。

そもそも何故、こんなに(?)なってまで杏奈を探さなければいけないのか?

原点まで遡りそうになる欲求に駆られた。


「振り回されるにも程がある。」


 そうだ、何時も自分は理不尽な程、横でわめかれて、振り回されて・・・。


(大体、初対面の時だっ・・・て?)


 初対面。

それを思い出す。

髪の長い杏奈。

普段、自分に話しかける以外では、今の活発な杏奈と違って大人しい・・・。


(あれは・・・何時だ?)


 思い出せない。

正確には、"一致しない"のだ。

現在の杏奈と、征樹の記憶の中の初対面の杏奈とが重ならない。

髪の長さだけではなくて・・・。

いや、髪が長かったのは覚えている。

覚えているのだが、一致しないのはそれだけじゃない。


「僕は・・・もっと前に?」


 記憶の中の杏奈は、それくらい幼くて・・・。

てっきり今の学校に入学して、しばらくしてから出会ったと思っていた。

錯覚していた。


(そう、その時も髪は長かった・・・長かったんだけれど・・・。)


 違和感が気持ち悪い。

違いは何だ? その正体は?

彼女・・・彼女達と会う、一緒に過ごすようになる前の自分なんて、人を記号のようにしか認識してなかった。

一番付き合いが長い冬子だって、"眼鏡"が真っ先に認識されて、それ以外は覚えようとも全く思わなくて。

当然、その法則(?)に漏れず、杏奈だってそうだったはずだ。

無視しても杏奈はずっとまとわりついて来て、今じゃ名前もきっちり覚え、夕食も一緒にとる時だってある。


「そう考えると、本当にしつこいな。」


 やれやれと頭を掻く征樹。

一言で言ってしまえば、それでお終いなのだが、一体自分の何がそんなに彼女の興味を引くのだろう?と、未だに征樹は思う。

見方を変えれば、それだけ杏奈は必死だったという事なのだが、そんな彼女の心の機微など到底理解出来るわけがない。

ある意味で、そういう人格形成が未発達とも言える。


(ん?どうして杏奈は杏奈なんだ?)


 決して哲学的な話などではない。

法則に漏れないという事は、杏奈だって最初は"記号"のような覚え方をしていたハズだ。

いきなりフルネームと顔をセットで覚えているなんて、今までの自分としてはおかしい。

それなのに何故?

頭を掻いていた手が止まる。

そして、その手を下ろすと、まじまじと自分の手を眺める。

数秒眺めた後、征樹はその場から走り出した。


違いは"一つ"だけ。


("髪飾り"だ!)


 初対面の幼い杏奈と、その後の杏奈。

髪の長さも途中で変わったが、それ以外の違いはソレ。

杏奈の記号は、"髪飾り"。

夏休みって食べられる?(訳:日曜日も更新します。)

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