第ⅩⅩⅩⅩⅩⅦ話:だから、しっくりとこない。
弱っていた。
弱っているとしか表現出来ないのは、教室に一人佇む征樹だ。
ここ数日、杏奈の顔を見ていない。
お陰でストレートに聞こうとしていた征樹的にはイライラを処理出来ないでいた。
しかも、そのイライラの雰囲気のせいか、周りの人間も話しかけてこない。
こうなると以前と同じ状態になるのだが、唯一話しかけてくる杏奈もいない。
征樹が人と関わったり、話したりする事が皆無となった時の状態に逆戻り。
(よく、いなくなって初めてわかるというけれど、杏奈は相当うるさかったんだな。)
用いる意味合いが微妙にズレていても、突っ込む相手すらいない。
それはさておき、流石にこう何日も・・・と、いっても2,3日程度だが、欠席しているのは気になる。
"気になるようになってしまった。"
それに出席を取る教師のリアクションから推測して、無断欠席だ。
「行くか・・・。」
とても中途半端だし、埒があかないと感じた征樹のする事は一つだけだ。
(僕は・・・こんなにアクティブだったろうか?)
心の中で首を傾げつつ、席を立つ。
ついでに杏奈の机の中に溜まったプリント類もまとめて荷物に入れるのを忘れない。
休んでいた間のノートは、杏奈が泣きついてこない限り放置の姿勢。
泣きついて来た時にノートを見せるか否かも、その時次第なのだが。
ある意味その辺りのスタンスは変わらないようだ。
「よし。」
用意も完了して、杏奈の自宅へ向かう為に教室を出る。
行き先は、住所録と日頃の送り迎えで大体把握している。
「葵くん!」
校内で自分をこのように呼ぶ人間自体がいないので、すぐに簡単に誰だかわかった征樹は、声のした方向に振り向く。
「奏先輩。」
そういえば一緒に夕食を取った晩から、話した事がなかった事に今更気づく。
所詮、征樹の人に関する興味なんて、この程度なのだ。
だがしかし、本人的には学年自体が違うのだから、仕方ないとあっさりこれを処理する。
「何かご用ですか?」
「え、あ、ううん、そういうわけじゃないんだけど・・・。」
杏奈がいなくてイライラしているのもあるだろうが、どちらかというと普段通りのばっさり発言の征樹。
「そうですか。」
そのまま、てくてくと歩みを再開する彼の後をついて、奏はとりあえず一緒に歩く。
「何か急いでいたりするの?バイト?」
何故バイトという発想が出てくるのだろう?
どう考えても征樹の年齢ではバイトなど出来るはずがないのに。
疑問に思う。
見られたりしたのだろうか?
奏の家は、征樹の家に近いという事だから見かける事もあるかも知れない。
その確率はゼロではないが、今はそういう事を考える時ではないのだ。
そういう優先順位が常にはっきりしているのも征樹という人間。
「違います。」
それよりも、今は目先を優先する事に。
「じゃあ、なぁに?」
「杏奈が、ここ2,3日学校を休んでるんで、様子を見に・・・。」 「なんで?」
はて、今、"なんで?"と言われたのだろうか?
自分の聞き間違いではないかと首を傾げる。
「えと、だから様子を見に。」 「だから何で?」
奏が素早く征樹の前に回り込む。
やはり、聞き間違いではないようだ。
「何で、"葵くんが行かなきゃいけない"の?」
「杏奈が休んでいるから・・・。」
俯いて表情が見えない彼女に征樹は、再度説明を重ねる。
答えは変わらない。
「杏奈ちゃんのクラスメートは、葵くんだけじゃないでしょう?葵くんが行かなきゃいけない理由なんてないじゃない・・・。」
心なしか、奏の肩が震えているようにも征樹には見える。
「まぁ、そうですよね。でも、僕も会いたいし。」 「どうして!」
急に上げられる大声。
視線は征樹を睨んでいる。
恨めしそうな、それでいて殺意が感じられそうな視線。
「どうしてなの?葵くんにとってあの娘はなんなの?!どういう存在?!」
今にも掴みかからんばかりの奏の勢いと異常な雰囲気をよそに征樹は冷静に分析していた。
(僕にとっての杏奈・・・か・・・。)
「杏奈が居なければ、僕は先輩と関わる事はなかった。静流さんと一緒に暮らす事も・・・。」
言いながら、そうなんだと再確認。
「全部が全部、面倒で・・・そうやって生きて・・・ん?まぁ、今も今で面倒だけれど・・・。」
結局、どちらにせよ面倒だと思う時はある。
でも、それ以外に思う事も。
「一度関わったら、ね。やっぱり最後までって。」
それは琴音の時にも覚悟したコト。
「葵くん・・・。」
「勿論、先輩とも。でも今は、ね?」
奏にとっては効果覿面、有無を言わせない微笑みだった。
ストーカー疑惑の次はヤンデレ疑惑の奏さん・・・。
果たして、この人の人気は出るというか、需要あるのだろうか(汗)




