第ⅩⅩⅩⅩⅩⅠ話:カツ丼のない取調べ。(挿入後)
というコトで、これが50話オーバーの回になりますです、はい。
「一体どういう流れでこうなったんです?」
口調に怒気をはらんだ状態で、杏奈は声を上げた。
現在、居間には奏に向かい合うように座った杏奈、静流がいた。
征樹が居ると話せる事もなくなるので、買った物を台所で整理させ、『女同士で話すのが良い事もあるから。』などと適当にそれらしい事を言って、別の部屋に待機させた。
特に反論する要素がない征樹は、すごすごと自室に引き下がって行ったが、よもや現状が一人の男に三人の女が好意を寄せる、通称"修羅場"とは思ってもいない。
「それは・・・。」
一瞬、問われるままに答えようと思ったが、はたとここで奏は止まる。
「私の事より、貴女は?葵くんは彼女いないって言ってたけれど、じゃあどういう関係?」
こちらは正式に招待されているのだし、何の関係も無い人間にぺらぺらと喋る義理もない。
「アタシは征樹の幼馴染で・・・。」 「嘘!」
そんな事はありえない。
思わず何時もの自分では出せない強い声で。
「葵くんは小さい頃にここから引っ越して、しばらく帰って来なかったもの。幼馴染という程、長い年月の付き合いの子なんているはずない。」
ズバリの指摘に杏奈は次の言葉が出てこなかった。
そして何より、その指摘の内容の詳しさに。
「アタシはきちんと征樹に幼馴染認定してもらったんです。呼び方だって許可をもらったんだから!」
今度はガーンというありきたりな衝撃音が奏の頭の中に鳴り響く。
ちなみにこの二人のやりとりのほとんどが、初耳だらけで静流は整理するので精一杯だった。
若干、ガーンという衝撃音は、静流の頭の中にも鳴ってはいたが。
「はい、じゃ、こっちのターン!」
ターン?
杏奈以外の二人の頭の中で、盛大な突っ込みの文句が出たが、彼女の勢いにタイミングを逃した。
「こっちが静流さん、現在の征樹の保護者兼後見人。アタシが杏奈、征樹の"幼馴染の親友"兼クラスメート。OK?OKね?じゃ、はい、あなたのターン。何処の誰で何の用?」
「ちなみに征樹君と"同居中"。」
杏奈のターン(?)で、"幼馴染の親友"を強調しているのを聞いて、負けてはいられないとばかりにすかさず"同居中"というワードを入れ込む事に成功する静流。
一瞬、"同棲中"という単語も浮かんだが、何となく早過ぎる(?)というか、卑猥に思えて言うのを止めた。
何とも言えない思考ではある。
「私は四之宮 奏、3年です。」
言いくるめられた感がして負けたような気分になる奏だったが、相手が名乗ったのだから失礼にあたると思った。
だが、杏奈の"幼馴染の親友"という称号(?)と静流の"同居中の保護者"という称号(?)は、奏にとってはショックで大ダメージ。
何より、"誰よりも征樹の事を知っている"という想いだけは負けていないはずだった奏の自信は瓦解したも同然だった。
「征樹にラブレターを送ったのは?」
「はい。でも、気づいてもらえなくて・・・。」
奏は自分の送ったラブレターの内容に行き違いがあったこと、それによって征樹が予期せぬ方向に話を進めた事を二人に話した。
もっとも征樹に向かって、粗相をしてしまった事や自分から恋愛相談に乗って欲しいと言った事は省略した。
この二つは流石に恥ずかし過ぎる。
というか、十分に笑い話だ。
「ふーん。」 「なるほどね。」
とりあえず二人は納得しているように奏には見えた事にほっとした。
だが、彼女達二人が征樹に対して並々ならぬモノを持っているのを感じた。
それはやっぱり女の勘というモノで・・・。




