第ⅩⅩⅩⅩⅦ話:第一印象が大事って誰が決めた?
「失礼します。」
第二保健室の中に入った征樹は、複雑な気持ちだった。
わざわざここまで会いに行く自分。
親切なのか、お節介なのか。
(それでも会ってみたいとか・・・。)
興味本位といったらそれまでなのだが、そもそも興味本位だけで動く人間では自分は決してない。
それは理解している。
それなのに実際は保健室にいて、もう扉をくぐってしまっている。
「興味本位だけで動くのは、杏奈だけで充分。」
杏奈の場合も100%興味本位ではないというのに、征樹はそんな事に気づくわけもなく・・・。
(誰も・・・いない?)
保健医どころか、人の気配すらない。
少しだけ開いた窓から入り込む風が、ベッドを仕切るカーテンを軽く揺らしているだけ。
「寝てるのか。」
あまり良くないと思いつつも、仕切りのカーテンの中へ。
そこには確かに一人だけ横になっている人影がある。
征樹はそのままベッドの横にある椅子に腰かけ、様子を見る事にした。
(この人が。)
ショートカットの女性。
ショートカットといっても、杏奈のようなシャギィが入った髪形ではなく、きっちりぱっつんのおかっぱ状態。
白い肌と、具合いが悪いせいか心なしか発色の悪い顔色に小さめの唇。
瞳の色は閉じられているからわからないが、全体的に小さくて華奢なイメージ。
「スリーピングビューティー?」
活動的な杏奈とは、何処をどうとっても正反対の印象だった。
そこで征樹は、はたと気づく。
比較対象は何故、杏奈なのだろう?と。
(他に女友達いないもんな。)
我ながら、他人に対する何という興味の薄さだろう。
「ぱっと見は、可愛らしい人のようだけど・・・。」
こんな小さくて可愛らしい人が、勇気を振り絞って手紙を出したという事実に尊敬すら感じる征樹。
と、ぱちりと目の前の少女が目を開き、征樹を見る。
なんとも言えない空気が、その場を支配していく。
「・・・あ・・・おはよう。」
瞬間的に征樹の口から出た言葉がコレ。
最近、瞬間的に出てくる言葉がロクでもないという事だけは征樹も自覚した。
第一、もう昼だ。
「・・・。」 「・・・。」
そのまま互いに見つめ合い、無言。
「あ・・・。」
少女は何を思ったのか、枕元を手で探り始める。
「?」 「・・・がね・・・。」
小さな声。
だが、少し高めの可愛らしい声は、征樹の想像の範囲内というか、想像通りだった。
「あぁ、眼鏡ね、はい。」
彼女の探る手の近くにあった赤い上フレームで楕円の小さなレンズの入った眼鏡を少女に渡す。
全体的に小さい印象のある少女は、眼鏡も小さいんだな、と勝手に納得する征樹。
少女は、そんな征樹の思いに気づかずに渡された眼鏡をかけ、もう一度征樹の顔を見る。
「?」
見たままの状態で、固まっている少女。
そして、見つめられたまま居た堪れない気分の征樹。
「葵くんっ?!」
突然上がった大きな声にびっくりする征樹だが、その言葉の内容が自分の苗字だという事にも驚いた。
がばっと大声をあげた直後に起き上がる少女。
「あ、急に起きたら・・・。」
大丈夫なのだろうかと、征樹は言葉を続けようとしたのだが・・・。
「う゛ぷっ・・・。」
起きた瞬間、ビクリと身体を震わせ呻く少女の仕草に征樹は見覚えがあった。
何故なら、征樹自身も少し前に"静流相手に"同じコトをしてしまったから。
他の手段が間に合いそうもないのだがら仕方がない。
征樹は咄嗟に自分の手を少女の口を覆うように伸ばす。
制服を汚してしまっては、目の前の少女も困るだろうと思いながら。
問題は、手だけで受けきれるかだったが、そこはままよとばかりに・・・。
ようやく新キャラです。
杏奈もショートカットだったのを忘れていたのは内緒の話。
宣言通り、翌日連続更新します。




