第ⅩⅩⅩⅩⅥ話:恋文の送り先は?
「あー、寝不足・・・だな、完全に。」
机につっぷす。
今日の授業中、何度諦めて寝ようかと思った事か数知れない。
原因は、征樹の制服の内ポケットにある。
クールな分類に(おそらく)入るであろう征樹にとっても、これは初体験。
シュミュレートすらしにくい。
ましてや相手がどんな人物かわからないなら尚更。
「諦めて午後は寝るかな。」
軽い現実逃避。
何故なら、そこへ至る前の昼休み。
ここに最大の難関とも言えるイベントが待ち受けているのだから。
「あ、アタシが代わりに行こうか?」
朝からぐったりしていた征樹を見るに見兼ねて。
という、建前で杏奈が声をかける。
正直、杏奈は杏奈で複雑な心境だった。
征樹の傍にはいたい、征樹をもっと知りたい。
そういう自覚があって、それが最終的に何に帰結するかも理解している。
そして、それにブレーキをかけなければいけないコトも。
勿論、当然、征樹が寂しさを感じず、幸せになるのなら喜ばしい事だ。
「いや、それじゃあ、ますますややこしい事になる。」
出だしから誤解と曲解の塊なのは言うまでもない。
(けど・・・・・・やっぱり、嫌・・・・・・なんだよね。)
もし、征樹に彼女が出来たら。
もう二度と自分が見てもらえないのではないかという不安、恐怖。
預かっている鍵だって、返却を余儀なくされるだろう。
「腹を括って、さっさと行ってくるかな・・・。」
"どうやったってその時はやってくるのだから"
征樹・杏奈、共に脳裏に浮かんでいる言葉だ。
「場所、何処だっけ?」 「ベタに屋上。」
昼休みの屋上と記されてあったのは、杏奈も知っているが再確認だ。
この後、杏奈は尾行する気だったのだから。
「屋上って立ち入り禁止じゃないの?」
放課後、限られた部活動のみ屋上の使用許可が出されていたはずだ。
「さぁ?鍵を持っているのかも知れないし、屋上に続く扉の所にいるのかも知れない。」
自分に聞かれても困るとばかりに征樹は肩を竦めてみせる。
「付き添い・・・。」 「いらない。」
さっきも説明しただろう?と念を押すような視線で睨まれた。
「あぅ。」
「まぁ、とくかくだ。」
やれやれと溜め息をつきながら席を立つ征樹。
「オイ!屋上で人が倒れてるってよ!」
教室に響き渡る言葉に思わず二人は顔を見合わせる。
「まさか・・・。」 「まさかね・・・。」
わぁおっ以心伝心♪っと、普段の杏奈ならボケたりするくらいのシュチュエーション。
「だって、オマエ、あそこって立ち入り禁止だべ?」
なおも言葉を続けるクラスメートに思わずうんうんと頷く杏奈。
端から見るとマヌケ以外の何者でもない。
「ばっか知るかよ。さっき運ばれて行ったぜ。」 「何処にだ?」
ズイっとクラスメートの間に割り込む征樹の姿。
その真剣な表情に引き気味のクラスメートだったが・・・。
「ど・こ・に・?」
「だ、第二保健室。」 「第二保健室だな。」
コクコクと壊れた首振り人形の如く征樹に圧倒され、首を振るクラスメートに杏奈は心の中で合掌する。
「杏奈。」
「え?あ?何?」
「あと頼む。」
どう頼むというのだろうか?
そんな疑問や突っ込みを口に出す前に征樹は疾風のように教室を出て行った。
そんな光景を呆然と見ていたクラスメートは、一様に怖ェなどと言い合っていたので、とりあえず杏奈はもう一度心の中で合掌するしかなかった。
後を追うという選択肢を頭からすっぽりと抜けさせたままで。




