第ⅣxⅩ話:迷子にならない為の幾つかの方法。
家に着くまで、二人はずっと無言のまま歩いた。
ただ言葉はなくとも、二人は何かの繋がりが出来ていた。
離れる事が無かった二人の手がその証拠。
それだけは二人はしなかった。
今、琴音は別室で冬子と話している。
征樹は途中で管理人(猫)を回収し、台所で餌を与えているところだ。
「ポチはね、僕が名づけ親なんですよ。」
カリカリと餌を噛み砕く音だけが響く中、征樹は猫の前でしゃがみこんだまま静流に向かって話しかける。
「小さい時に猫なのにポチって呼び張って言い続けたら、そのまま定着しちゃって。」
ちなみにその当時は犬もポチ、鳥もポチだった。
それを思い出して征樹はクスリと笑う。
静流にしてみれば、その光景はただ痛々しいだけで。
「当時の僕って相当頑固だったんですね。」
「それは今も変わらないんじゃない?」
皮肉には皮肉で。
「あはは、そうかも。」
静流は自然に征樹の横にしゃがみ、二人で猫のポチを眺め続ける・・・。
「ねぇ、征樹くん?」 「あの、静流さん?」
二人同時に発した言葉に、ポチを眺めていた二人が見詰め合う。
「僕ね、琴音さんと話してて思ったんだ。」
静流に会話の主導権を譲る事無く言葉を続ける。
「どうしてこんなに悲しいんだろうって・・・。」
にっこりと微笑む。
「考えて、考えて、思ったんだ・・・この悲しさ、悔しさは、母さんに何も出来なかった事と同じなんだって・・・。」
それでも征樹は微笑みを崩さない。
それは彼なりの予防線。
何かを劇的に変化させる事を拒否する。
「ね、征樹くん?」
今度は静流が口を開く。
「泣いてもいいのよ?悔しくて、悲しいなら。それとね、お母様に出来た事はあるわ。それは貴方が産まれてきたってコトよ。」
優しい瞳と微笑を湛えたまま、征樹の肩をそっと抱く。
その行為を征樹を拒絶する事はしなかった。
征樹の様子を確認した静流は、自分が狡賢い女だと自覚しながら、しっかりと征樹に伝える事を決意した。
「私と一緒に暮らしましょう?これからは私が横にいるわ。征樹くんが泣きたい時も苦しい時も。一緒にいるから。」
まるで失恋の悲しさにつけこんで告白しているようなものだ。
一人の大人として、甚だ情けなくはあるが。
それでも今は、恋心と優しさをすり替えて目的だけを達成する事を優先した。
今の現状を打破する為には、手段を選んでられない。
自分は征樹の味方だと強く主張しなければ。
「くっ・・・うぅっ・・・。」
声を殺した征樹が泣きながら胸にすがりついて来た時、静流は天まで昇る気持ちだったのは、言うまでもない。
自分に甘えて縋ってもらえているという優越感。
何しろ、今、目の前の少年が頼っているのは、自分だけなんだという。
案外、自分は独占欲が強いのかも知れないと自覚する。
ただ、その自覚には"病的に"という形容が足りていないのだが。
「・・・・・・静流さん。」
気づくと泣き声も身体の震えもぴたりと止まった征樹の声が胸元から聞こえる。
もう少し、このシーンを味わっていたかったのだが、そこはぐっと堪えた。
「なぁに?」
「・・・・・・吐きそう。」
静流の願いが満たされたのは、非常に刹那の時間になったのだった。
今回も翌日更新致します。
お楽しみに。




