第ⅩⅩⅩⅧ話:手と手は独りじゃ繋げない。
征樹は未だかつてこんなに緊張した事は無かった。
緊張自体を元々しないタイプな方だが。
これが自分だけの問題ではないとなると、内容的な事も相まって、柄にも無く緊張しているのだ。
だが、征樹は今、そんな自分の行動を後押ししてくれた幼馴染がいる。
「自分でも驚きだよ。」
征樹は覚悟してインターフォンを押す。
押してからの反応が物凄く長く感じる。
「はーい。」
「葵です。」
程なくして。
「征樹ちゃん?どうしたの?」
中から不思議そうに琴音が出てくる。
どう言おうかと迷いながら、とりあえず深呼吸する。
「琴姉ぇ、デートしょう。」
自分でも発想が幼稚で、もっと上手に切り出せないのかと盛大に突っ込んで呆れたが、出てしまった言葉は戻らない。
「行こう?」
征樹はあとは野となれ山となれとばかりに琴音の手を取り、ぐいぐいと引っ張る。
自分から見ても有り得ない光景だ。
「ちょっと待って、鍵をっ。」
引っ張る征樹に戸惑いながらも、征樹の余りの真剣な表情と強引さに渋々と了承してしまう琴音。
「ナァ~ゴ。」
低音の音が二人の会話に紛れ込む。
「"ポチ"、悪い。この家の見張り頼めるか?」
二人の間に割り込んで来たちょっと太めの三毛猫。
首には"管理人"と書かれた突っ込み満載のプレートが下げられている。
杏奈も玄関口で見たあの猫だ。
ポチと呼ばれた猫は、チラリと征樹達二人を一瞥すると興味なさ気にノソノソと歩いて行く。
が、結局、部屋の前の扉で丸くなった。
「さぁ、行こう。」
とはいえ、しっかりと玄関の鍵は閉めたのだが。
征樹は、今度このふてぶてしい"友人"にはしっかり礼をしようと思った。
「何処へ行くのかしら?」
マンションを出てからの琴音の質問に、征樹ははたと首を傾げた。
自分は一体、ここからどうしたらいいのだろうかと。
手は未だに繋がれたままだ。
これは琴音が逃げないように、半ば強制的な意味合いがあったのだが、かといって今更に手を離す気にもなれない。
こんな光景を知り合いに見られたら、かなり恥ずかしい。
思考の結果、目的もなく歩くハメに。
「琴姉ぇに助けてもらった時もこうしてたね。」
ふと征樹は思い出していた。
「えぇ。」
それは琴音もだったが。
「あの時、どうして助けてくれたの?"本当"は何で?」
何も持たない自分の手を埋めてくれた温もり。
琴音の手が今もここにある。
「"自分もそうしてもらいたかった"から?」
きゅっと、その言葉に応えるように手を握る力が強まる。
「僕は・・・よくわからなかったけど、琴姉ぇにこの手を取ってもらって嬉しかったんだと思う・・・。」
今度は征樹が強く握り返す。
「嫌われても構わない。今度は僕がこの手を取りたい。僕は琴姉ぇを助けたい。」
気づくと、以前に征樹が蹲っていた通りに来ていた。
「身体の傷、旦那さんの暴力の痕・・・だよね?」
先程までの緊張は何処かへ行き、征樹はしっかりと琴音の目を見て、その言葉を告げた。
次回、征樹がもう一歩、人間に歩み寄り・・・。
キリが悪いので、翌日連続更新致します。




