第ⅩⅩⅩⅢ話:逃げ出した後の苛立ちって後悔?
あはは、何やら人気薄ですなぁ(苦笑)
「洗い物終わりましたー。空瓶出してきます。」
猛スピードで皿洗いを済ませ、空き瓶類をプラケースに入れていく征樹の傍らで、その様子をじっと見ている瀬戸。
視線は一瞬たりとも征樹から離さないのだが、かといって何か声をかけるわけでもない。
そうしている間に征樹は、収納し終わったケースを店の外に出しに勝手口から出て行く。
「ママ?」
無言の瀬戸に声をかけたのは、例の征樹大好きの二人組だ。
「アンタ達・・・今日はアオイちゃんにちょっかい出すのはやめておきなさいよ?」
二人の方を見向きもせずにすかさず釘を刺す。
「何ソレ。まるで私達の頭ン中が年中発情しているみたいな言い方、やぁ~ねぇ~。」
「せめて、アオイちゃん相手のみと言って欲しいわ。」
それはそれでドストライクな変態発言を一睨みして、溜め息をつく。
「アンタ達の為よ。今日、アオイちゃん物凄く機嫌が悪いから変なコトしたら、それこそ嫌われるわよ?」
ひらひらと手を振って二人をあしらおうとする瀬戸を、驚きの表情で見つめる二人。
「あれで?スゴく張り切ってるとしか・・・。」
「世間で言うところの空元気ね。」
微妙に使い方が間違っているのは、お約束だ。
「どうしたんです?瀬戸さん?」
三人のやりとりを全く知らない当の征樹が、瓶出しを終えて訝しげに問う。
「何でもないのよ。じゃ、アトでね。」
機嫌の悪い時の征樹への対応も心得ている瀬戸は、彼をそっとしておこうと気を利かせ、二人を引き連れて征樹の前から去っていく。
一人残された形になった征樹。
お陰で考える時間が出来てしまった事に溜め息をつく。
思い出すのは、"例の事件"
静流とのキスの事だ。
別に寝ぼけていたと、そういう風に片付けてくれれば良かったのに、静流は無言のままだった。
そして、その無言に耐え切れずに、征樹はまた逃げ出してしまって今に至る。
「どう反応したら良かったんだろ・・・。」
彼の機嫌の悪さの発端は、どちらかと言えば無言で逃げ出した自分への苛立ちだった。
「でも・・・。」
思い出す。
唇と唇が触れ合う・・・どころか・・・。
「舌、入ってた・・・。」
口に出した瞬間、征樹は慌てて洗い場の水道の水で勢い良く顔を洗う。
洗いながら、なんとか正常に・・・論点を戻す。
「あれだよな・・・一緒に住んだら・・・。」
あんなアクシデントが日常的に起こる可能性があるかも知れない。
そう考えると非常に精神衛生上よろしくない。
何度も何度もアレだが、"思春期"なのだ。
「選択肢がないのに、何でこんな事になる?」
更に苛立つ。
このイライラを何処に持っていけばいいのかわからない。
他人に興味を持つ機会が、極端に低い自分だが、静流に対する態度は本当に酷いのではないだろうかとうい気がしてきた。
無言で逃げ出したり、無言で逃げ出したり、無言で逃げ出したり。
「あ。叫びたいカモ。」
ただ、こんなにイライラしていても周りの皆がそっとしておいてくれるのは感謝だ。
瀬戸には、本当に頭が上がらない。
反面、こうやって考えてしまう時間が出来てしまうのは困るが、それは仕事をする事で埋めればいい。
元々、アルバイトでここには来ているのだから。
しかし、イライラしてしまうのはどうしようもない。
これが自分がガキだという一端なのだと、嫌という程見せつけられた。
それもこれも、今日一日だけで劇的とも言える変化の一歩目を踏み出してみようかと思ったせいなのだろうか?
「間違いじゃないと思ったんだけどなァ。」
いや、間違いではない。
そうはっきりと言えると再認識した直後、征樹の耳に甲高い破砕音が入る。
「?」
フロアの方からだ。
ガラスの割れるような音。
「誰かグラス落としたかな?」
征樹は近くの戸棚にある救急箱と箒inちりとりセットを持って、急いでフロアに出た。
次回は、更新出来たら4月17日(日)
無理でしたら翌週の土曜日(23日)になります。
詳しくは、活動報告で。




