第ⅩⅩⅩⅡ話:零距離の柔らかさ。
あっはっは、某サイトで更新速度が速い小説にブッちぎりで載ってて吹いたw
悩んでいた。
杏奈の問いにもはっきりと答えられなかった。
"理由がないのが理由"
(哲学的な・・・。)
征樹の中では哲学的=屁理屈的という変な認識がある。
原点に立ち返ると、征樹は現状の生活に困っていない。
確かに色々と助けられる事はあるだろうが、そこまで他人に助けられる理由はない。
逆に言えば、助けられるという一点においては断る理由もない。
だから、"理由がないのが理由"
杏奈の場合とは、色々と勝手が違うのである。
「でも、琴音さんも他人でそこまで親しくなかったんだよな・・・。」
結局、自分一人で判断しきれない。
「はぁ・・・。」
がっくりしながら家の玄関を開く。
だが、居間に戻っても誰の姿もない。
(書斎かな?)
先程と同じように書斎の扉を叩く。
「静流さん?」
何の反応もない。
もう一度、扉を・・・やはり反応がない。
「う~ん・・・。」
恐る恐る扉を開いてゆく。
「わっ?!」
大きな声を上げそうになって、征樹は慌てて自らの口を塞ぐ。
「静流・・・さん?」
扉に背をくっつけていたのだろう、扉を開いた征樹の前にゆっくりと静流が倒れてくる。
どうやら眠っているようだった。
「熟睡?」
しゃがみ込んで顔を覗く。
閉ざされた瞳に睫毛の長い静流の横顔、規則正しい寝息も微かに聞こえる。
やはり眠っているようだ。
「困ったな・・・こんな所じゃ、体痛くなっちゃうし、風邪も引いちゃうよ。」
かと言って、起こすのも可哀想だ。
本当は起こして、色々と話をしたいのだが・・・。
(一か八かだ。)
征樹は意を決して、扉を開き倒れ込んでくる静流をすぐさま抱きとめる。
じゃがみこみような状態なまま、自分の左手を肩下辺り、右手を膝裏に持っていく。
ここまでは元々の静流の体勢もあってか、簡単だった。
(ぎっくり腰にならないようにしないと。)
腕の力だけに頼ろうとすると、負荷は全て腰にいきグキっといってしまう。
ついでに意識がない状態の方が、重く感じるというのも征樹は知っていた。
願う事は、静流自身の重さがそこそこである事だ。
スタイルはいい方だが、何分に征樹より身長が高い。
持ち上げられなくて、後ろにひっくり返るのだけは勘弁だ。
「頑張れ男の子!」
意を決して持ち上げるが、やはり身長のせいか服装のせいか、ずるずると手が滑っていきそうになる。
(これは・・・余り長い時間は無理カモ。)
心持ち静かに、かつ急いで静流を自室、昨夜に彼女が寝ていたベッドへと運ぶ。
動き出すとほんわり静流のいいニオイがしてきて力が緩みそうになる。
自分の非力さ加減に情けなくなりながらも、何とか静流をベッドへと運ぶ重作業を終えた。
風邪を引かないように布団をかけ、ようやく筋肉から力を抜いて近くにある椅子をベッドの傍らに置き腰掛ける。
「村迫 静流さんか・・・。」
父の部下の弁護士で無理矢理自分の世話を押し付けられた女性。
「別に嫌いじゃないんだよ・・・。」
理知的な瞳に長い睫毛。
はっきりとした顔立ち。
紛れもなく美人だ。
そんな人が自分の前にいて、あまつさえ一緒に住もうと言う。
誰だって、自分じゃなくたって混乱する。
するに決まっている。
「美人だけど・・・寝顔はカワイイかも。」
不謹慎とはわかっていながらも、観察してしまう。
もっとも昨夜は、征樹の方が観察されていたのだが。
「結局、もっと理由が欲しいんだよね・・・。」
頬杖をつき、溜め息。
彼女ともっと親しければ、或いは遠縁でも血が繋がっていれば受け入れられたかも知れない。
他人の状態のまま、どんっと目の前に現れたのが問題。
しかも(現在の)理由も動機も不明。
「・・・ん?・・・あれ?」
ゆったりと考えて、微妙に整理が出来た気がすると征樹は思った。
「そか。静流さんが、どうして他人の僕を気にかけてくれるのか、それもあるけど・・・どれだけ僕を信用して、一緒にいてくれるのかが欲しいのか・・・でも、それだと・・・。」
それだと。
自分はやっぱり心の何処かで寂しくて、誰かに傍にいて欲しがっている?
「僕は子供かよ・・・。」
ちぇっと舌打ちする征樹。
実際に法律的にも未成年扱いなのだが、それでも不満なのである。
「琴音さんにも子供扱いされるワケだよね・・・。」
そんなに人生迷子か?と突っ込みながら、静流の顔にかかった髪を上体をのばしてかき分けてやる。
「ん・・・征樹・・・?」
「あ。」
ばっちりのタイミングで静流と目が合う。
何がばっちりなのかと言うと、距離感。
上体を椅子から乗り出したせいか、顔と顔の距離、およそ15cm弱。
その距離にいたという事を全く気づかなかった征樹。
「えと・・・。」
どう切り出せばいいのか、そう考えているうちに頭はどんどん混乱して身体は硬直したまま。
そのまま、静流の手が・・・。
「んむぅっ。」
突然、強い引力で15cmの距離が0に。
目を見開く征樹。
思考は依然、停止したままだ。
心拍数が急激に上がっていくのだけがわかる。
零距離の唇と唇。
静流の柔らかい唇がくにゅっと征樹の唇を上下にこじ開け、歯にぬるりと舌が・・・。
「っ?!」
その刺激に真っ白になった思考のまま、反射的に飛びのく。
「あ・・・。」
征樹が離れた事への静流の声。
「しっ、静流さん、何を?!」
「?」
何で?と首を傾げる静流。
「今・・・キス・・・。」
「・・・どうして?・・・だって・・・・?!」
ガバっとベッドから飛び起きて立ち上がる静流。
「うわっ?!」
余りの突然の動作に征樹は、今度は壁側まで飛びのいたのである。




