第ⅢxⅩ話:もっと早くに出逢えてたら?
月~金が【花束】更新で、土日のどちらか一日が【貴女と理由】更新とか出来たら・・・いいなぁ・・・(トオイメ)
征樹が帰ってきたのにも関わらず、静流の心は波立っていた。
「やっぱりカレーはいいなァ・・・例え三食でも耐えられるかも。」
「あはは、インド人にでもなるつもり?」
先程までは征樹と一緒に来た女性が、彼にとって何なのかが気になり、今は彼の横で微笑んでいる杏奈が気になる。
「そうじゃないけどさ・・・静流さん?口に合いませんか?」
「え?あ、美味しいわよ。征樹君、料理上手だものね。」
時折、自分を気にかけてくる征樹の声に安心する。
この感覚は何なのだろう?と。
「まァ、カレーだから。杏奈が作っても美味しく食べられますよ。」
「それは、どういう意味かねぇ?チミィ?」
ギリギリと征樹の首を絞める真似をする。
「・・・今日の事、本当に反省してるの?」
「う゛・・・ゴメンナサイ。」
手を慌ててテーブルの下に引っ込める杏奈。
苦笑する征樹。
(楽しそう・・・。)
二人共楽しそうに食事をしている。
昨日までは食事を独りでいるからつまらない。
自分と一緒に食べられて嬉しいと言っていた少年がだ。
二人が・・・羨ましい。
征樹と同じ年齢で、同じ学校で、同じ時を沢山共有してきたコトが・・・。
「昨日の静流さんとの食事も楽しかったけど、今日も楽しいな・・・食事は大人数って言うのはコレか。」
「あ・・・。」
ガタっとその場で立ち上がってしまった静流を見上げる二人。
「静流さん?」
「ごめんなさい。ちょっと仕事で連絡しなきゃいけなかったんだわ。席、外すね?」
足早に静流は居間を去り、荷物を置いてあった征樹の父の書斎に駆け込む。
「ぅ・・・。」
部屋に入り、扉を閉めるとずるずると扉を背にして座り込んだ。
静流の中に湧いてきたのは、"杏奈と比べられた"という事実。
その事実に堪らず席を立ち、逃げ出してしまった。
じわじわと事実だけが、征樹が何気なく口に出した言葉が身体を支配する。
"人と比べられて負ける"のだというコト。
今迄の自分なら、努力と才能と美貌。
所謂、"実力"でなんとかしてこられた。
でも、今回は違う。
自分は征樹にとって"姉"と呼ばれる存在でもなければ、同じ時間を共有してきた"幼馴染"でもないのだ。
こればかりは、どうにも出来ない。
どんなに頑張って努力しても、覆らない、覆せない事実。
得られないモノ。
気づくと自分の身体が小刻みに震えているのに静流は気づいた。
優秀さ・美しさで必要とされてきた自分が、何も出来ずに拒絶だけされる恐怖。
体験した事のない種類の絶望的な敗北感。
しきりに自分に問いかける。
(何故?)
こんなに心配していた自分を征樹が見てくれない。
(何故?)
征樹が自分以外の二人にばかりに微笑む。
(何故?)
そんな二人の位置に自分がいたい。
「ぁっ・・・。」
静流は自問自答の中で、初めて気がついた。
今迄、抱えた事が無かったから。
あったとしても、如何様にも跳ね返せてこられたから。
「私・・・嫉妬してる・・・の?」
それ程、村迫 静流という女性は、優秀過ぎた。
そして、気づいてしまった。
昨日一日の出来事で。
自分の前で、あんなにも無防備で無邪気に泣いて、傷ついている少年を・・・。
自分が受け止めてあげたい・・・"自分だけ"が。
それは、"独占欲"だ。
「う・・・うぅ・・・っ・・・。」
静流は泣いた。
声を殺して泣いた。
初めてに近いぐらいに抱いた、そして認識してしまった二つの醜い感情を持つ自分に。
「静流さん?」
「っ?!」
征樹が書斎部屋の扉の前にいる。
自分が背にした板一枚向こうに。
「杏奈を途中まで送ってきます。その、帰ったら少し話しがあります・・・。」
それだけ述べると、征樹の足音が扉から遠ざかって行くのが聞こえる。
途中、静流は部屋を飛び出して、追いかけたいという衝動に駆られた。
そして、その衝動と一緒にまた泣いた。
今度は声を出して。
もう二度と征樹が部屋に帰ってこないのでは?
そんな在り得ない妄執が頭から離れなくなって、不安で更に泣いた。
誰もいない家に一人残されて泣いていた静流は、この静けさと寂しさが、ずっと征樹が何年も味わってきた重さなんだと・・・。
そう意識の片隅でぼんやりと想っていた。
恋は唐突に。
でも、恋愛に鈍感とかこういう挫折をした事がないまま大人になる人っているよね。
逆に子供の頃から挫折しまくって大人になる人もいるし・・・どっちがいいんだろうね?というオハナシ。




