第Ⅲ話:コレって何のドッキリ?と二人は思った。
「ここね・・・。」
五階建てのマンションの最上階の角部屋。
セキュリティはちゃんとしているらしく、部屋の前には封書に入っていた鍵がなければ入れなかった。
各階の角部屋は、同じマンションの部屋の倍近い敷地でそこそこ高額な部類には入るだろう。
が、今はそんな事よりもこれから我が身に訪れるだろう試練の方が重要だ。
何しろ、あの所長の息子なのである。
どんな無理難題をふっかけてくるような捻くれた人間か、想像に絶する。
しかもその息子の面倒を見ろという仕事を、どうにかして断る事を勝ち取らなければならない。
それは今まで行ってきたどの仕事よりも労力を使いそうな気がした。
主に精神的な面で。
しかし、行動しなければ何も変わる事などないというのは、社会に出てから嫌という程味わってきた。
"行くしかないなら、ブチ当たるのみ"
所謂、女は度胸。
流石に玄関も鍵で開けるのは躊躇われたので、備え付けのインターホンを覚悟して鳴らした。
音が部屋内に響く音が微かにして、程なくカチッという音とともにその扉が開いた。
開かれた扉。
の、前で二人は時が止まったように固まっていた。
それは互いの予想に対する予想のあまりの違いにだった。
征樹は征樹で家政婦のオバちゃんを想像していたし、静流は静流で目つきの鋭い捻くれたクソガキを想像していた。
実際はモデルとか言われても信じてしまいそうなスタイルのクールビューティーが目の前にいて、純朴そうなぽややんとした少年が目の前にいたのだ。
もはや、コレはナニ?
ドッキリ?
カメラは何処?
そんなハテナマークがぽんぽんと浮かんでしまうのも無理はなかった。
「あ、あの・・・?葵 征樹君?」
先に金縛りが解けたのは、静流の方だった。
コレも経験の差だ。
「よ・・・ね?」
だが、一方の征樹はというと、尚、反応する事は出来なかった。
「ね?」
「あ、は、はい。」
三度目でようやく反応。
「す、すいません。扉を開けたら凄く綺麗な人がいたんで・・・。」
「え?」
「えっ?!」
征樹の発言に静流は面食らった後、顔が熱くなった。
酒の席や仕事先で美人とかセクシーとか言われた事はあったが、こう面と向かって素直に綺麗と言われたのは初めてのような気がした。
次に声を上げた征樹は、自分の発言が何の理由にもなっていない事にワンテンポ、いやツーテンポ遅れて気づいた。
「と、とりあえず中へどうぞ。」
取り繕っても無駄と理解したので、征樹は静流を家の中へと招き入れる。
その声に静流は何時もの冷静さを取り戻し、家の中へと入って行った。




