第ⅩⅩⅧ話:敬称の超えられない壁にブツかった。
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「あ、琴姉ぇねも食べて行くかな?」
「あらあら、とてもステキなお誘い。でも、私もお夕飯作らないとけないから、もう少ししたらお暇するわね。」
にっこりととても嬉しそうな表情で笑ってくれる琴音。
見たかった征樹の顔が見られた安堵の表情だった。
「征樹君・・・。」
逆に取り残されてしまったのが静流だ。
幼馴染を名前呼び捨てにして、笑顔で台所へ行った征樹。
一緒に帰ってきた女性を親しげに"姉"と呼び笑う征樹。
どちらも自分の知らない征樹た。
第一、一体この女性は誰なのだ?
征樹とどういう関係で・・・。
心の中が痛くて、イライラする。
と、同時に何も知らないという疎外感。
「本当は、征樹ちゃんだってああいう風に笑えるの。笑いたいの。勿論、私も。」
少し寂しそうに静流に呟きかけてくる女性。
「でもね、取り巻く環境がそれを許してくれなかったのね。だからあんな風になってしまった。貴女はこれから征樹ちゃんの丸ごと全部受け入れられる様にならないと。そうじゃなきゃ、征樹ちゃんの傍にいられない。多分、本当は彼も望んでいるはずだから。今日の事は許してあげて?」
琴音は静流から目を離さない、逸らさない。
ほんわかした笑顔のままだった琴音だったが、その瞳は存外に"そうじゃないと許さない。"と言っているようだった。
「あ、あの?」
「あ、そろそろお夕飯の準備しないと。征樹ちゃ~ん、私、帰るわね~、また今度~。」
言うだけ言って去っていく琴音。
そういえば名前も聞かなかったし、言わなかった事を彼女が去ってから静流は気づいた。
確か、征樹は"琴姉ぇね"と呼んでいたような・・・。
「くぅぅ・・・。」
敬称<呼称<愛称<親称
現在の自分より3段階も上だ。
杏奈だって呼称だった。
自分より一つ上。
イライラが爆発しそうで悶える。
初めての気分。
それとともに負けたくないという気持ちが、鎌首をもたげてくる。
これが人生で初めての"嫉妬"というものだと理解するのは、もう少し先の話。




