第ⅩⅩⅢ話:迷子とビスケット。
心の中のモヤモヤが治まらないまま、征樹はアテどなく歩いていた。
怒鳴ったのは悪かった。
そう思う。
少なくとも女性を頭ごなしに怒鳴る男はロクでもない。
征樹の中ではそうだ。
学校をサボったのは事実だし、それが良い事ではないのもその通りだ。
そもそもなんであんなに攻撃的な態度を取ったのだろう?
自分の家に居座られたから?
自分の行動を邪魔されたから?
静流が嫌いだから?
「・・・それは・・・無いか。」
嫌いではない。
それは断言出来る。
「何か、僕、昨日から考え過ぎじゃないか?」
いい加減疲れた。
このまま祖父母のの所に戻って、転校してしまおうか?
祖父母の相手で自由な時間は少なくなるが、それもアリな気がしてくる。
『征樹君・・・。』
『お~い、またそうやって面倒くさがってスルーすんな~。』
二人の女性の顔が浮かんだ。
「何だよ・・・ソレ・・・。」
征樹は思わず、その場にうずくまった。
動きたくない。
「葵さん?」
半ば混乱しかかっていた征樹にかけられた優しい声。
今朝も聞いた声。
「在家・・・さん。」
「何処の迷子さんかと思いましたよ?」
こんな大きな迷子がいるか。と思ったが、今はそれくらい路頭に迷っていたのだがら、言い得て妙だ。
「はい、どうぞ。」
差し出された手にはビスケットの袋が乗っていた。
「ポケットの中にはビスケットがひとつ♪」
完全に迷子の子供扱いだったが、今は何故かそれが心地良かった。
「・・・叩いたら、増えたりします?」
「割れてもいいなら♪」
二人共、自然に笑った。
「でも、どうしたのかしら?こんな所で。」
誰かみたく問い詰めるようではなく、心配だけが溢れる問いかけ。
さっきの静流はどうだっただろう?
同じような部分は無かっただろうか?
心配と善意。
余計に混乱と罪悪感がこみ上げて、自分が情けなくなってくる。
「あらあら・・・ん~、葵さん、こんな所じゃなんだから、お家に行きましょう。ご自分のじゃなくて、私の家。少し落ち着いてから、お話しましょう?」
心身共にグラついていた征樹は、言われるままに在家について行く。
「んん~。」
なにやら首を傾げていた在家は、おもむろに征樹の手を取って指を絡ませてきた。
「また迷子にならないようにしましょうね。」
子供扱いも甚だしいとは思うが、在家の温かい手を振り解く気力も無く、また振り解いたら本当に迷子になるような気がして、彼女の手を握り返した。
そんな征樹の様子に期限を良くしたのか、鼻歌混じりに歩いてゆく。




