第ⅩⅩⅡ話:行動する若さは矢の如く?
ちょっと・・・いや、かなり反省した。
「首、絞めるのは酷かったよね。」
反省していたのは、細井 杏奈である。
今、彼女の両手には買い物袋が下げられ、その中には沢山の食材が詰まっている。
確かに隣の席でギャアギャアと騒がれ、目立ちまくった挙げ句の果てに首まで絞められたんじゃ、誰でも怒るあろう。
「確かに悪かったけど・・・帰る事ないじゃんよぉ~。」
調子に乗り易い性格だと自分でもわかっている。
それで損した事も沢山ある。
一度、勢いがついたら止まらなくなるのだ。
それが良い事でも、悪い事でも。
怒らせた事は悪い事なのだが。
『細井さん、昔は髪長かったよね。』
きちんと昔の自分を覚えていてくれた。
その言葉が聞けたのだから、自分的には悪くはなかったカモなどとそこは反省の色なく思ってしまう。
「髪切る前も切った後も・・・同じ態度で変わらなかったもんね。」
切る前と切った後で、自分はあんなに多大な変化があったのに。
勿論、周りも。
「よしっ!葵 征樹!独り暮らしの味気なさと今日の怒りをアタシの手料理でチャラにしてやるからなーっ!」
ここまでに二つの勘違いが既に発生している事など気づくはずもなかった。
「しかし・・・二年以上でようやくアレか・・・多少マトモな受け答えは出来るようになってけど。」
征樹の無愛想振りはどうにかならないものか。
だが、一応受け答えはするので、社交性の低さという方が正しい。
「よし、今日の料理の手柄に名前を呼び捨てにしてやろう。」
もはや謝罪の意は何処へやらだ。
しかし、こういった彼女の明るさが、征樹からしてみれば高評価なのだから、人の組み合わせや縁というのは面白い。
意気揚々と征樹のマンションへと辿り着き、玄関先でびっくりさせてやろうと中から出てくる人で開くオートロックの自動ドアを素早く潜り抜ける。
管理人に注意されるかと内心ヒヤヒヤしたが、管理人室にいたのは"管理人"と彫られた木のプレートを首から下げて丸まっている大きな一匹の猫だけだった。
謎だ。
「ふっふっふっ、驚けよ、征樹!」
-ピンポーン-
勢いだけでインターフォンのボタンを押す。
もうすぐ驚いて、慌てて出て来る征樹の顔が見られるのだ。
「征樹君ッ!」
玄関から慌てて出て来る女性を見て、驚いたのは杏奈の方だった。




