第ⅡxC&Ⅳ話:蜂が飛ぶ?
イマドキの効果音でいうなら、ゴゴゴゴだろうか?
或いはドドド?
そんな重圧感を溢れさせた存在がそこにいた。
「え、えぇ~と、これはですね、その。」
「まぁまぁ、落ち着いて、落ち着いて・・・。」
蛇に睨まれた蛙の如く冷や汗をかきながら、狼狽しつつも弁解を試みようとする三人組。
「落ち着いてるわよ、私は。」
冷静ではあるが、どう見てもそれを通り越して冷酷な声での威嚇は終わらない。
「私達はちょ~っと、二人のラブラブ度を聞いただけで・・・。」
あは、あははは~と苦笑する事しか出来ない。
「さっさと仕事に戻る!」
ビシッと持ち場に向かって指をさす静流の声に3人は風のように去って・・・。
「また遊びに来てネッ♪」 「Hurry up!」
静流の射殺すくらいの視線と声を浴びて今度こそ去ってゆく。
「なにか、楽しい人達ですね。」
基本的に仕事に対しては、真面目なスタンスの大人達しか見た事ない征樹にとっては、結構興味深いものだった。
会話の大半は質問責めだったが。
「はぁ・・・あのね、征樹君?」
あんな状況でも楽しいと言ってしまえる征樹に静流は少々呆れて溜め息をつく。
こちらはこちらで、征樹の周りの大人達がある意味で濃過ぎたからと考えていた。
「あんまりよく知らない人にほいほいとアドレスとか教えちゃダメよ?」
至極真っ当な事だけを指摘して注意する事にした。
「そういうものなのか・・・。」 「そういうものなの。」
征樹には携帯のアドレスのみだったら、特段に問題がないように思える。
この辺は単純に携帯を所持するようになってから日が浅いせいもある。
「でも、父さんの職場の人だから、全く知らないってわけじゃ・・・て、あれ?」
こちらも同じく至極真っ当な事を述べて反論しようとしていた征樹が、突然きょとんとした表情のまま固まる。
「どうしたの?」
「そういえば・・・僕、あの人達の名前、知らない・・・。」
馴れ馴れしい(?)初対面からの質問責めというコンボだったので、すっかり仲良くなりつつあるような気がしていたのだが、互いに名乗る事すらしていなかった事に今更気づいた。
「はぁ・・・。」
もう一つ更に深い溜め息をついた静流に征樹は反論を続けられなくなってしまう。
互いの認識的には所長の息子と父の職場のOLさん達というだけだ。
征樹の名前は静流が呼んでいたから、知っていてもおかしくはないが。
「まぁ、問題ないか。」
「征樹君。」
ちょっぴり強い口調で諭す静流。
幾つかの用事を済ませて、征樹の所へ戻ってみれば征樹と会話していて、何やら自分の事を話していたかと思うと、アレよコレよという間に逆ナンをし始めたのだから、静流としては慌てて止めに入るしかなかった。
しかも、征樹も征樹であっさりと自分のアドレスを交換しそうになっているではないか!
ただでさえ、征樹は世間ズレしている部分があるというのに。
(全く、いくら征樹が可愛いからって!しかも仕事中なのに!)
もっともらしい事を征樹の前では言っているくせに、まぁ、所謂、嫉妬である。
しかも非常に大人の女性としては程度の低い・・・いや、頭の悪いだろうか?
「・・・気をつけます。」
一方、征樹は静流がそう言うのだからそうなのだろう。
そう解釈して素直に謝る。
「解ってくれればいいの。ちょっと強く言っちゃって、私こそごめんなさい。」
だが、言葉とは裏腹に征樹に寄ってくる悪い(と、静流は勝手に認識している)虫を追い払った事に関しては自分を褒めてあげたいと、一人で納得する事にして・・・。
「いえ、別に。」
「さて、私の用事も終わったし、ランチでも食べて、本格的なデートをしましょうか。」
残り5話程度になると思います。




