第ⅡxC&Ⅲ話:お姉さんとおねぇいさん。
ある日、突然ともいえるタイミングで自分の面倒を見に来たという父の部下の女性。
それが村迫 静流である。
彼女が来る以前でも、征樹は一人で暮らす事に特段不自由を感じた事はなかった。
もし、仮に困った事があって、征樹が助力を求めれば冬子が家に来てくれただろうし、瀬戸だってそれとなく様子を見に来てくれただろう。
今流行(?)の孤独死みたいな事態は起こりえないはずだ。
けれど、魘されるような夢はどうにも出来なかった。
(そういえば、本当にないな・・・最近。)
彼女に抱きしめてもらった夜から、征樹の周りには人が増えた。
いや、この説明は正確ではない。
それまでもその人間の大半は、征樹の近くにいたし、簡単に会える距離にいた。
ただ征樹がそこに目を向けなかった、向けられないでいただけなのだ。
征樹の周りにいる人物。
杏奈は、対等な立場で物を言い合える存在なっただろうし、奏だって同じように良い先輩になっただろう。
大人という立場だったら、琴音はなにかと内に秘めがちな征樹の心の内を的確に汲んでくれたはずで、冬子も鈴村も、それぞれの立場でアドバイスしてくれたに違いない。
特に鈴村は、生前の母の話も多く聞けたはず。
でも、静流はそのどれも違う。
征樹の事を心配してくれてるが、すべからく甘やかすわけでもない。
静流の心の機微が征樹に解るわけでもないが、それでもああやって抱きしめてくれて、彼女なりに声に態度に出してくれる。
その反応はとても嬉しい。
見てもらえている気がする。
それは夢にも現実にも現れている。
「う~ん・・・。」
それを踏まえたうえで、首を捻る。
だからといって、静流は征樹にとって赤の他人以外の何者でもない。
結局、なんなのだろう?
この征樹の考えを他の女性陣が聞いたら、失笑・苦笑・溜め息のオンパレードは確定だ。
それでも現時点で、何かしらの言葉にして静流を語るとするならば・・・。
「普通かな・・・。」
無難。
あまりにも無難過ぎる答えだ。
問いかけてきた方ががっかりするくらいの。
「甘やかされてはいないけど、でも、静流さんは僕を何処かで見ていてくれるって思ってます。そういう風に自信を持って言える事がちょっと嬉しい・・・かな。」
それは・・・。
「それって、つまり。」 「あれかしら?」 「好きってコト?」
そうなるのだろうか?
再び首を捻る。
それも極論なのだが、その好きか嫌いかという枠にのっとってみると。
「うん、好きなのかな。」
少なくとも嫌いというベクトルではないと既に結論は出ている事なので、この辺は征樹の中で異論なくまとまっている。
(こうして考えると、静流さんていい人なんだよな。)
「僕にとってはすごく優しい女性なので。」
この答えを聞いた女性達は、なにやら満足したような、それでいて瞳をギラギラさせ始めている。
何かしらのスイッチを押してしまったカンジ。
「少年は、今いくつ?」
「? まだ中学生ですけれど?」
「今は未成年だけれど、悪くないわよね?」
うんうんと頷き合う女性達。
「えっと、何が?」
征樹の反応ももっともだ。
未成年だから悪くないとか、征樹個人としては早く成人して自立したいと思っているのに。
謎だ。
更に首を傾げる事しか出来ない。
とりあえず、目の前の女性達の視線が耐え難い。
「何か、変な事を僕は言ったのかな・・・。」
征樹の見解のレベルは、この程度である。
「うぅん、いいの、いいの。キミはそのままでいてね♪」
杏奈でこのテのテンションには慣れがあるけれど、ついていけない感が強い。
「あぁ、でもたまにはお姉さん達ともお出かけしてみない?」 「はぃ?」
「キミ、携帯持ってる?」
「あ、はい。」
ごそごそと懐から素直に自分の携帯を出して見せる征樹。
「じゃ、お姉さん達のアドレスを・・・。」 「何をしてるのかしら?ア・ナ・タ・達?」




